幼い頃は、奏瀬に生まれたことを誇りを持っていた。
自分が力に恵まれていることを知ると、沢山の人の力になれると喜んでいた。
父上も、母上も、兄上も、使用人も、周りにいる者全てが大好きで、他人に触れることも躊躇しなくて。
『ぼく、おおきくなったら“ひきうけや”になります! それで、みんなをすくってあげるんです! ちちうえも、あにうえもですよっ』
『はっは、それは楽しみだな』
『ならば、おれはみやこの助けになろう』
『あらあら、母は仲間はずれですか?』
『もちろん、ははうえもです!』
『ふふ、嬉しいわ』
7年前のあの日以降、僕は自分の力を恐れて、人と距離を取るようになった。
そんな僕の思いを察したのか、家族も僕に触れなくなって。
昇華してはいけない“想い”を奪ってしまった罪悪感から、兄上に壁を作るようになったのは、僕の方だ。
けれど、ずっと避けてきた自分の力に、奏瀬の家に、そして兄上に。
僕は、柿原と出会って、向き合うことになった。 最初は、声に乗るほどの“想い”を抱えた柿原に、少しばかり同情して。
それが、いつの間にか依頼を受けることになって……あの日のトラウマを乗り越え、遂に儀式も行った。
柿原の“想い”に心動かされて、助けてやりたいと思っていただけの真奈美さんも、直接話して、彼女の“想い”を知ることで、心から救ってあげたいと思うようになって。
人が抱えるには重すぎる“想い”から解放された彼女の笑顔に、僕自身も救われたような思いだった。
「よく、やったな。自分の力で人を救った気分は……どうだ?」
柿原の家からの帰り道、兄上は僕に尋ねた。
真奈美さんはあの後、手紙のことを……クラスメイトから受けていたいじめのことを、家族に話すことにしたようだ。
その後、柿原一家がどうするのか僕が知ることはないだろうが、少なくとも柿原は彼女に嫌がらせをしていたクラスメイトを許すことはないだろう。
僕は、恐怖に囚われていた真奈美さんだけでなく、妹を助けてやれないと悔いていた柿原のことも、救ってやれたのではないかと思う。
目を伏せ、そんなことを考えて、僕は兄上に答えた。
「嬉しいです。それに……僕も、この力で人を助けられるのだと、救われる思いでした」
「そうか……」
兄上の声を聞いて、誤解されぬよう言っておかなければと、顔を上げる。
「兄上。僕は……あの日、兄上の“想い”を奪ってしまったことを今でも忘れていません。これは、僕の罪だと受け止めています。何度謝罪しても足りない……本当に、申し訳ありません」
「……都。お前は、勘違いをしているようだ。本家で話をした日から、訂正しようと思っていた」
「勘違い、ですか……?」
一体何のことだろうか。
そう思って兄上の顔を見ていると、兄上は足を止めて僕を見つめた。