Side:奏瀬(かなせ)(みやこ)


 代々我が家の人間が受け継ぐ異能がある。
 その力の根源も、どうして我が家の人間だけ異能が使えるのかも、全く分からない。

 けれど我が家の祖先は、その力を商売にした。
 触れた者の“想い”を奪い、涙に変えることで消し去る異能を。



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『次期当主は、本家次男・(みやこ)とする』


 年に一度開かれる、奏瀬(かなせ)家の総会。
 一度した発表を覆すことができないその場で、昨年、奏瀬家現当主である父は家業を継ぐ人間を発表した。

 指名したのは、家に背き、異能を嫌う一族の問題児である僕、奏瀬都。


 総会に出席した奏瀬に連なる者達は、皆ざわめいた。

 誰もが疑っていなかったからだ。
 既に家業に携わっている本家長男の(とおる)が当主の座を継ぐことを。

 そしてそれは、指名を受けた僕自身も同じ。


『何故ですか、父上! 次期当主になるべきは僕ではなく、兄上でしょう!』

『既に決まったことだ。喚く暇があるのなら、奏瀬を継ぐ為の修行でもしていろ』

『父上もご存じでしょう! 僕はもう、奏瀬の力は――!』

『都。いつまで過去の失敗を引きずっているつもりだ。甘えるな』

『――ッ!!』


 父の言葉が、今も胸に刺さっている。

 分かっているんだ。
 立ち止まっていてはいけないことくらい。

 けれど、あの人を前にすると――……。



 結局、僕は“奏瀬を継ぐ気は無い”と宣言して家を出た。

 慣れない一人暮らしに手間取っていたのは昔の話。
 今はそれなりに、自分で稼いだお金で生活ができている。


「水道代の請求書がきているな。む、前回より高い……! くそ、先月は無駄遣いしてしまったからな……仕方ない、他を切り詰めるか」


 マンションの郵便受けから回収した郵便物をひとつひとつ改めていく。
 それが終われば、リュックサックに詰めた荷物を片付けて、外行きの洋服から着物に着替えた。

 ワンルームの手狭な部屋にも慣れてきたが、和装だけはなかなか止められずにいる。
 本家ではこれが当たり前だったし、みんな家では和装をしているものだと、家出するまで思っていたからな。


 今日はアルバイトのシフトも入っていないし、もう外に出ることはないだろう。
 家にいるからと言ってゆっくりできるわけではないが、いつもより時間に余裕があることは確かだ。


「ふぅ……今日は、久しぶりに“引き受け屋”の名を聞いたな」


 慣れ親しんだ服装になって一息つくと、思い出すのは大学での出来事。