踏み込みすぎだろうかと、迷いが()ぎる。


「……。奏瀬(かなせ)には、人の“想い”を感じ取る力があるとお話しましたね。その中でも、僕は一際敏感なもので……強い“想い”がこめられていれば、声や物からも、その“想い”を感じ取ることができるのです」

「はあ……」

「“想い”というのは、意識していなくても、強烈に抱いていれば移るものなのですよ」

「……!」


 ピンと来ていない顔をしていた真奈美さんが、ハッとしたように勉強机を振り向く。
 その横顔は、恐怖に引きつっていた。


「そう、この部屋の勉強机。……もっと正確に言うなら、その引き出しの中、でしょうか。痛いくらいに、訴えかけてきますよ。あなたの、“恐れ”をね」

「ぁ……」

「教えて、いただけませんか? あの引き出しの中に、何を隠しているのか」

「…………」


 横を向いたまま俯いた顔が、どんな表情を浮かべているかなんて、考えるまでもない。
 僕は少し迷ってから、真奈美さんの肩に触れた。


「僕は、あなたを救いたいと思っている。あなたを苦しめる“恐怖”を綺麗に取り除いて、気兼ねなく日常に戻れるように」

「……私、は……」

「……引き出しを、開けてもいいですか?」

「……っ」


 返事はなかったが、彼女の“想い”は雄弁に語ってくれた。
 真奈美さんから手を離して、僕は部屋の奥の勉強机の前に向かう。

 近づけば近づくほど、“想い”が鮮明に感じ取れる。
 その“想い”の強さに眉根を寄せながら、僕は引き出しを開けた。


「これは……手紙? 中を見ても?」

「……はい」


 真奈美(まなみ)さんの返事を聞いて、“恐怖”に共鳴しないよう注意しつつ可愛らしいデザインをした封筒を開ける。
 そして中身を取り出すと、僕は絶句した。


「…………こんな嫌がらせ……!」

「……」


 封筒の中身は、何枚もの写真だった。
 それらには人が映っていたり、いなかったりするが、共通するのは、柿原(かきはら)の家が映っているか、真奈美さんが映っているか、だ。

 一目見て分かる。これは、盗撮写真だ。何枚も、何枚も、真奈美さんを脅すために撮られた。

 他にもいくつか似たような封筒があったので、中身を調べると、どれも盗撮写真か、手紙が入っていた。
 手紙には、封筒の宛名と同じ筆跡で、[めざわりだから外に出んな]とか、[あんたがいないから毎日ちょー楽しー♪]とか、反吐が出るような内容が延々と綴られている。

 ざっと見た限りでは、これを送ったのは真奈美さんの高校のクラスメイトのようだ。
 よくもまぁ、高校生がこんな手の込んだ嫌がらせをするものだといっそ感心するが、これで原因は分かった。


「他に、されていることは?」

「……いえ……今は、それだけです……」