せめて外に出られるようになればいいんだけど、過呼吸になるくらい怯えてるんじゃそうもいかない。


「本当に“引き受け屋”があるなら、真奈美を助けてやれるのに」


 やりきれない想いを込めて、小さく呟いた。
 食堂のざわめきに紛れて、きっと埋もれてしまう言葉。

 それでいい。
 俺も、さっさと切り替えないとな。

 今は大学の試験も迫ってるし。
 真奈美のことは、夏休み中にじっくり考えるとしよう。

 そう自分に言い聞かせた矢先、隣から溜息が聞こえた気がした。


「“引き受け屋 (しげる) 奏瀬(かなせ)”。そう検索してみろ」

「……え?」


 顔を上げると、友人とは反対隣の美男子が素知らぬ顔で昼食を食べている。

 今喋ったの、こいつだよな?


「あの、今、何て?」

「恭介?」


 男に尋ね返すと、横目に一瞥された。
 しばらく待ってみても、口を開く様子はない。

 どうやら、二度は言ってくれないらしい。


「……“引き受け屋 茂 奏瀬”?」


 小さな声で繰り返す。
 どうしてか、軽々しくそれを検索してはいけない気がした。

 スマートフォンをチラリと眺める。


 ここじゃ、ダメだ。
 家に帰ったら……検索してみよう。

 そう決めて、隣の美男子を見つめた。


 ――一体、こいつは何者なんだ?