真奈美さんから引き受けた“恐れ”を飲み下すと、僕は目を開けて2人に種明かしをした。


「それが、“想い”が昇華された感覚です。今は依頼された“想い”のほんの一部を引き受けただけですが……儀式ではこのように、気付いたら“想い”が昇華されていますから、気負わなくて大丈夫ですよ」

「えっ?」

「引き受けたって、今なんかしたのか!?」

「手放したい“想い”を思い浮かべていただく……と申して、表面に出てきた真奈美様の“恐怖”を引き受けさせていただきました。根本から昇華したわけではないので、恐れはまだあるでしょうが……少し、楽になっていただけたのでは?」


 柔らかく微笑むと、真奈美さんは目を大きく開き、口元を手で覆ってしまった。
 彼女が今、どんな心境であるかは想像することしかできないが、儀式を行うことに希望や期待を抱いてもらえていれば幸いだ。

 一方で柿原は、蚊帳の外であったからか、まだ何が起こったのか理解できていないらしい。


「ちょ、何? 何したんだ?? 俺にもそれやってくれよ!」

「……“想い”は簡単に手放してはいけないものです」

「じゃあお試しで! ほら、一旦引き受けて後で返すとかさ!」

「何を言ってるんだ、お前は……」


 呆れのあまり本音が口に出てしまった。
 それでも柿原は諦められないらしく、鬱陶しく僕に迫ってくる。


「なぁ、俺にもやってくれよ! 兄貴として知る権利があるって!」

「あぁ~っ、分かった! やってやるから離れろ!」

「よっしゃ! それじゃ頼むぜ!!」


 子供のようにキラキラとした目で手を差し出してくる柿原に、僕は溜息をついて投げやりに手を重ねた。
 引き受けた“想い”を返すなんて聞いたことがないが、ものは試しと、相変わらず中身まで元気な柿原の“想い”から“好奇心”を選んで引き受ける。

 今日は真奈美さんの“想い”を昇華するために来たのに、この男は緊張感が無いというかなんというか。
 全くもって呆れた男だ。
 さっさと相手をして黙らせるとしよう。