「それでは、儀式についてご説明致しますね。昇華の儀式というのは、依頼の当事者様から、依頼された“想い”を引き受け、昇華する、その一連の工程を指した言葉です」


 真奈美さんは僕の説明に頷いて、理解できていることを示した。
 横に柿原がいるせいで、一度の説明で理解できる真奈美さんが天才なように思えてくる。


「今日は、儀式をしていただけるんですよね……あの、私は具体的に何をすればいいんでしょうか?」

「真奈美様には、手放したい“想い”を一時思い浮かべていただきます」

「“想い”を……」


 “引き受け屋”を頼るほど、悩まされている“想い”だ。
 やはり、思い出すのは躊躇われるのだろう。
 顔が曇った真奈美さんに、僕は手を差し出した。


「よろしければ、手をお貸しいただけますか」

「は、はい。えっと、これで……?」

「奏瀬?」


 控えめに乗せられた手をそっと握って、目を瞑る。
 以前柿原と接触した時のように、けれどあの時よりも落ち着いた、真奈美さんの“想い”が伝わってくる。

 僕はその中から、彼女の“恐れ”を見つけ出して、手繰り寄せるように、歩み寄るように、自分の心を寄せて彼女の“恐れ”に共鳴した。

 “想い”を感じ取ることと引き受けることの違いは、こちらが相手の“想い”を()()()()()()()として感じるか、自分が抱いた(・・・・・・)“想い”として感じるかにある。

 僕は彼女の“恐れ”が自分のものになったのを感じて、そのまま手を離した。
 これが、“想い”を引き受けた(・・・・・)状態。


「あ、あれ……?」

真奈美(まなみ)? どうした?」

「お兄ちゃん……上手く、言えないんだけど……なんだか今、胸がスッとしたような……?」


 不思議そうにする真奈美さんと、状況が掴めていない柿原(かきはら)の声を聞きながら、僕は心を落ち着ける。
 このくらいの“想い”であれば、涙に変えるまでもなく、消化できる。