運命と言っては少々大げさだが、僕にとっては大きな変革となる儀式当日。
兄上と共に柿原宅を訪ね、今までは話だけに聞いていた真奈美さんと出会いを果たした僕は、彼女の部屋の一角から突き刺すような“想い”を感じ取った。
言葉にするなら、アレは恐怖。
間違いなく、彼女の強烈な“想い”に関わる重要なものだろう。
「奏瀬?」
「あ、あぁ、すまない。勤勉な方なのですね。日頃から机に向き合っている様子が見て取れて、感服致しました」
「いえ、そんな……学校に行けない分、家でちゃんと勉強をしようと思っているだけです」
思わず勉強机に視線をやってしまったことを誤魔化すために、別のことを口にしたのだが、上手く納得してもらえたようだ。
はにかんで笑う真奈美さんは、柿原が手放しに褒めるのも頷ける、謙虚な“いい子”だと感じた。
咄嗟の判断で口にした褒め言葉で空気が柔らかくなったのを感じて、僕は気を取り直す。
アレに触れるのはまだ早い。
まずは、当初の予定通り“引き受け屋”と儀式の説明をするとしよう。
「自らを律することができるのは、大切なお力ですよ。柿原……恭介さんから一度お聞きになっているかと思いますが、改めて私から“引き受け屋”についてご説明させていただきます」
「は、はい」
「恭介“さん”……」
うるさい、お前は黙っていろ、と自然に言いそうになって、口を閉ざす。
危ない危ない。今日はそういった場ではないのだ。
柿原は真奈美さんの兄上なのだから、彼女の前で雑な扱いをしてはいけない。
そもそも柿原は依頼主だし、と心の中で言い聞かせて、微笑みを浮かべる。
「“引き受け屋”は、人の“想い”を引き受け、当人に代わって昇華する……簡単に申してしまえば、そのような商売をしています」
「“想い”を、昇華……」
「もっと分かりやすく言葉にすると、人の感情を、奏瀬一族の特殊な力でお預かりし、涙に変えて流し去る……ということを行っているんです」
「流し、去る??」
「真奈美様は、悲しい時や辛い時、涙を流して少し気持ちが楽になった、というご経験をされたことはありませんか?」
柿原にもしたことがある例え話をすると、真奈美さんは「あ」と目を丸くする。
「あります! 泣いた後はなんだかすっきりして、ちょっと心が落ち着くというか……」
「えぇ、そのような感覚です。我々奏瀬一族は修行を積んで、涙を流すことで意識した“想い”を全て消化する能力を身につけています」
「泣いたら全部忘れられるってことか?」
「そのような認識で結構です。なんとなくでもご理解いただければ、次は昇華の儀式についてお話させていただきますが……よろしいでしょうか?」
兄上から説明を受けたはずの柿原が確認してきたことについては深く考えず、真奈美さんに向けて微笑む。
横で柿原が「奏瀬の笑顔とか慣れねぇ……」なんてことをほざいているが、なるべく耳に入れないように努めた。
こんな奴でも、真奈美さんにとっては家族。近くにいるだけで少しは安心できるだろうからな。
「はい、なんとなくは分かりました」