客の要望には応えなければ、と僕は溜息をついた。
こんな様では後で兄上に何と言われるか。
そんな話をしているうちに、2階の部屋に着いて柿原が「ここ」と言いながら扉をノックする。
「真奈美、奏瀬が来たぞ。入ってもいいか?」
「うん、いいよ」
少しくぐもった声が返ってくると、柿原は扉を開けて僕を招き入れる。
彼女と会うのは初めてだが、僕は初対面と言うと少々距離を感じる程度に彼女への情がある。
それは、以前柿原の“想い”を感じ取った時の副産物と言えるもので、柿原の強い“想い”に影響されて僕の中に残ってしまったものだ。
部屋の奥の、ベッドに座っていた柿原の妹御は、僕を見ると少し驚いたように立ち上がる。
「あ、奏瀬さん、ですよね。ごめんなさい、一緒だと思わなくて……えっと、初めまして。兄がお世話になっております。柿原真奈美です」
「初めまして。奏瀬都と申します。リラックスしていただいて構いません。本日はよろしくお願い致します」
彼女、真奈美さんは柿原と同じ焦げ茶の髪を肩にかかる長さで切り揃えて、若者らしい涼しげな洋服に身を包んでいる。
僕は普段、人が寄ってこないようにあえて冷たい態度を取っているのだが、今日は逆に心を開いてもらう必要があるので、柔らかく、と意識して微笑んだ。
あまりジロジロと見ないように、けれど注意深く目を走らせた室内は女性らしい内装で、綺麗に整頓された何の変哲もない様子となっている。
けれど、僕はベッドの反対側にある勉強机が気になった。
目に見えるわけではない。
しかし、痛いほど心に訴えかけてくるアレは――……“恐怖”?
こんな様では後で兄上に何と言われるか。
そんな話をしているうちに、2階の部屋に着いて柿原が「ここ」と言いながら扉をノックする。
「真奈美、奏瀬が来たぞ。入ってもいいか?」
「うん、いいよ」
少しくぐもった声が返ってくると、柿原は扉を開けて僕を招き入れる。
彼女と会うのは初めてだが、僕は初対面と言うと少々距離を感じる程度に彼女への情がある。
それは、以前柿原の“想い”を感じ取った時の副産物と言えるもので、柿原の強い“想い”に影響されて僕の中に残ってしまったものだ。
部屋の奥の、ベッドに座っていた柿原の妹御は、僕を見ると少し驚いたように立ち上がる。
「あ、奏瀬さん、ですよね。ごめんなさい、一緒だと思わなくて……えっと、初めまして。兄がお世話になっております。柿原真奈美です」
「初めまして。奏瀬都と申します。リラックスしていただいて構いません。本日はよろしくお願い致します」
彼女、真奈美さんは柿原と同じ焦げ茶の髪を肩にかかる長さで切り揃えて、若者らしい涼しげな洋服に身を包んでいる。
僕は普段、人が寄ってこないようにあえて冷たい態度を取っているのだが、今日は逆に心を開いてもらう必要があるので、柔らかく、と意識して微笑んだ。
あまりジロジロと見ないように、けれど注意深く目を走らせた室内は女性らしい内装で、綺麗に整頓された何の変哲もない様子となっている。
けれど、僕はベッドの反対側にある勉強机が気になった。
目に見えるわけではない。
しかし、痛いほど心に訴えかけてくるアレは――……“恐怖”?