同じ大学に通っているからか、奇遇なことに柿原の家は僕が借りているマンションからそれほど遠くない位置にあるらしい。
ちょうどいいバスが無いだけで、歩いてすぐ行ける距離というわけでもないが、数十分もすれば柿原の家に着く。
「こちらのようです」
「3の12……うむ、間違いないようだな」
スマートフォンの地図と、表札に書かれた柿原という名前を確認して、住宅街の中の一軒家を見上げる。
ここが柿原の家。僕が、儀式を行う場所。
恐れからか、緊張からか、微かに手が震えた。それをぐっと握ることで抑えて、深呼吸する。
兄上は僕をちらりと見たが、口を開くことなく呼び鈴を鳴らした。
少し待つと、スピーカーから「はい」と女性の声が聞こえてくる。
「こんにちは、“引き受け屋”奏瀬です。ご依頼を受けて参りました」
『あ、はい、伺っております。少々お待ちください』
ガチャ、と玄関を開けて出てきたのは中年の女性だった。
僕達の顔や格好を見て少々驚いたようだったが、すぐに愛想のいい笑顔を浮かべて「どうぞ」と家の中に招き入れる。
「娘がお世話になります。息子から話は聞いたのですが、馬鹿なもので要領を得なくて……改めてお話を伺ってもよろしいですか?」
「はい。私から詳しいご説明をさせていただきます。申し遅れました、私は“引き受け屋”の当主代理、奏瀬透と申します。こちらは私の弟で、この度ご令嬢の儀式を担当する都です」
「奏瀬都と申します」
兄上の紹介を受けて、お辞儀する。
玄関先なので簡単な挨拶だけをして、柿原の母君にリビングへと案内してもらった。
開けたままの扉から居間に入ると、待機していたらしい柿原が勢いよく向かってくる。
「ちわっす! 来てくれてありがとうございます。奏瀬も……えっと、今日はよろしくな」
「あぁ……いや、よろしくお願い致します」
「え?」
いつも通りの対応をしようとして、今日は客だったと思い出し丁寧に言い直す。
兄上も柿原に挨拶を返して、母君に勧められたソファへと移動しながら話を切り出した。
「“引き受け屋”のお話は私がしますので、その間都はご令嬢とお会いさせてもよろしいでしょうか」
「えぇ、構いませんよ。恭介、案内してさしあげて」
「おう。じゃあ奏瀬、こっちな」
僕は兄上と別れて、2階へ案内する柿原について行く。
リビングから出て階段を上りながら、柿原は振り向いて僕に冗談めかした笑顔を見せた。
「その格好、すげー様になってるからびっくりしたわ。あ、真奈美にはいつもの冷たい態度取らないでくれよ~」
「お客様にそんなことは致しません」
「ちょ、なんだよその口調……逆にこえーからやめて欲しいんだけど」
「本日は仕事なので」
「勘弁してくれ。いつも通りでいいよ、その方が俺も楽だし」
「……仕方ないな……」
ちょうどいいバスが無いだけで、歩いてすぐ行ける距離というわけでもないが、数十分もすれば柿原の家に着く。
「こちらのようです」
「3の12……うむ、間違いないようだな」
スマートフォンの地図と、表札に書かれた柿原という名前を確認して、住宅街の中の一軒家を見上げる。
ここが柿原の家。僕が、儀式を行う場所。
恐れからか、緊張からか、微かに手が震えた。それをぐっと握ることで抑えて、深呼吸する。
兄上は僕をちらりと見たが、口を開くことなく呼び鈴を鳴らした。
少し待つと、スピーカーから「はい」と女性の声が聞こえてくる。
「こんにちは、“引き受け屋”奏瀬です。ご依頼を受けて参りました」
『あ、はい、伺っております。少々お待ちください』
ガチャ、と玄関を開けて出てきたのは中年の女性だった。
僕達の顔や格好を見て少々驚いたようだったが、すぐに愛想のいい笑顔を浮かべて「どうぞ」と家の中に招き入れる。
「娘がお世話になります。息子から話は聞いたのですが、馬鹿なもので要領を得なくて……改めてお話を伺ってもよろしいですか?」
「はい。私から詳しいご説明をさせていただきます。申し遅れました、私は“引き受け屋”の当主代理、奏瀬透と申します。こちらは私の弟で、この度ご令嬢の儀式を担当する都です」
「奏瀬都と申します」
兄上の紹介を受けて、お辞儀する。
玄関先なので簡単な挨拶だけをして、柿原の母君にリビングへと案内してもらった。
開けたままの扉から居間に入ると、待機していたらしい柿原が勢いよく向かってくる。
「ちわっす! 来てくれてありがとうございます。奏瀬も……えっと、今日はよろしくな」
「あぁ……いや、よろしくお願い致します」
「え?」
いつも通りの対応をしようとして、今日は客だったと思い出し丁寧に言い直す。
兄上も柿原に挨拶を返して、母君に勧められたソファへと移動しながら話を切り出した。
「“引き受け屋”のお話は私がしますので、その間都はご令嬢とお会いさせてもよろしいでしょうか」
「えぇ、構いませんよ。恭介、案内してさしあげて」
「おう。じゃあ奏瀬、こっちな」
僕は兄上と別れて、2階へ案内する柿原について行く。
リビングから出て階段を上りながら、柿原は振り向いて僕に冗談めかした笑顔を見せた。
「その格好、すげー様になってるからびっくりしたわ。あ、真奈美にはいつもの冷たい態度取らないでくれよ~」
「お客様にそんなことは致しません」
「ちょ、なんだよその口調……逆にこえーからやめて欲しいんだけど」
「本日は仕事なので」
「勘弁してくれ。いつも通りでいいよ、その方が俺も楽だし」
「……仕方ないな……」