今朝知ったことだが、“引き受け屋”は儀式を行う際、必ず2人体制で隣室に1人控えておくらしい。
 儀式の安全性をより高めるためのようだが、僕が柿原の依頼を受ける際は兄上が付き添ってくださると言っていた。

 さすがに兄上の手を借りるのは、と僕も一応は遠慮したのだが、今回の儀式の補助ができるのは兄上か父上くらいだと説き伏せられてお言葉に甘えることにしたのだ。


〈兄上って、奏瀬さん……じゃなくて、(とおる)さんだよな。あの人は儀式ってのやらないのか?〉

「兄上が担当になった場合、代金は跳ね上がる。一般人には到底払えんぞ。……面談の時に説明したと、兄上は仰っていたが?」〈え。そういや、そんな話聞いたっけ……? あんときは断られたのがショックで動揺してたからよく覚えてねぇわ〉

「人の話はちゃんと聞いておくことだ。僕も確認不足だったから責めはしないが、僕が依頼を受けた方が双方の得になるという話は柿原にもしたと兄上は言っておられたぞ」


 今朝の指導の後、「柿原氏に聞かなかったのか」と兄上に眉を顰められた僕の気持ちが分かるか。
 ちゃんと柿原に話を聞いておけば、僕も誤解をしたまま本家に行くことはなかったのに。
 動揺というのは恐ろしいが、だからこそ兄上のように冷静沈着でいないといけないな。


 アルバイトの昼休憩の時間を利用して、僕は電話で柿原と儀式の日程などを決め、当日の大まかな流れを説明した。
 それは既に兄上が一度話していたことだと思うが、柿原はやはり“依頼を兄上に断られたこと”以外はほとんど忘れていたらしい。
 全く、困った男だ。

 儀式を行うのは来週の水曜日。
 準備期間は4日。勘を取り戻すには充分だ。