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〈もしもし、奏瀬(かなせ)!?〉

「……騒々しいな。少しは落ち着け」


 奏瀬本家に1泊した僕は、いつもより早く出発することで、問題無くアルバイト先に到着した。
 報せはなるべく早く伝えてやった方がいいとは思ったが、早朝に電話をかけるのは躊躇われて、昼休憩となった今、こうして柿原(かきはら)に電話をかけている。


〈あぁ、悪い。……じゃなくてっ、どうなった!?〉

「落ち着けと言っただろう。心配するな、儀式は行う」

〈本当か!? よかったぁ……!〉


 喜びと安堵に包まれた声から、同様の“想い”を感じ取る。
 僕も敏感な方とは言え、柿原もよく“想い”が外に出る男だ。

 今朝、兄上に言った通り、僕は奏瀬の次期当主に指名されたことを受け入れたわけではない。
 奏瀬の……自分の力に対しても、まだ葛藤はある。

 けれど、柿原の“想い”を感じ取り、関わりを持ってしまった時点で、僕は柿原を、そして彼の妹を見捨てることができなくなった。
 他の者では助けられず、彼らを見捨てることもできなくて、僕に柿原達を救う力があるのなら。

 ――結論はひとつ。僕はその選択を、後悔しない。


「妹御は外に出られないと言ったな。場所は柿原の家でいいだろう。僕も忙しい身だ、直近でも来週の水曜か土曜の午前中になるが、そちらの都合はどうだ?」

〈あぁえっと、来週の水曜なら俺も空いてるけど……奏瀬の予定なんて関係あるのか?〉

「当然だ。僕が儀式を行うのだからな」

〈へー、奏瀬(かなせ)が儀式を…………って、はぁ!? 奏瀬が儀式を!?〉


 通話口から大きな声が聞こえてきて、眉を寄せながらスマートフォンを離す。
 いちいちうるさい奴だ。


「兄上と話して決まったことだ。僕が柿原(かきはら)の依頼を受ければ、“引き受け屋”は代金を取らない。金の心配がいらなくなるのだから、柿原にとってもいいことだろう」

〈そりゃあ、助かるけど……でも、奏瀬にできるのか? 前はできないって言ってただろ?〉

「できないとは言っていない。僕の管轄ではないとは言ったが」

〈自分は“引き受け屋”じゃないとか散々言ってたくせに……〉

「家業に携わっていないのは事実だ。僕1人じゃ不安だと言うなら安心しろ。当日は兄上もいらっしゃる」