「なっ……! 兄上、何をおっしゃっているのですか!」

「家を出たからといって、当主の決定は覆せない。お前は父上の跡を継ぐんだ。“引き受け屋”になるための修行はもう終わっている。儀式は行えるだろう」

「それは……っ、でも、僕は一度失敗して……!」

「……やはり精神は鍛えなければいけないか。家を出て1年半、そろそろ満足しただろう。次期当主としての修行は早ければ早い方が良い。儀式を行ったら、家に戻ってこい」

「っ、僕は帰りません! 奏瀬(かなせ)は兄上が継げばいいでしょう!?」


 僕の言い分を無視して話を進める兄上に、思わず声を荒げる。

 僕が嫌いだから依頼を断ったわけじゃないのはいい。
 だけど、僕に依頼を受けろだなんて、そんなの受け入れられるわけがない!

 どうして僕が家を出たのか、兄上は何も分かっておられないんだ。


「高校を卒業しても、お前は変わっていないな。そんな子供のような駄々が通じると思っているのか? いい加減、大人になれ」

「兄上こそ、分からないのですか!? 僕は人の“想い”を奪って消し去るんです! そんな僕が、“引き受け屋”などできるわけがないでしょう!」

「おかしなことを言う。それが“引き受け屋”だろう」

「っ、どうして分かってくださらないのですか!?」


 頭に血が上った僕には、兄上の落ち着きが苛立たしい。
 何を言っても通じないのかと、会話すら諦めそうになる。


 柿原(かきはら)の依頼を受けるよう、兄上を説得しに来た僕は、早速困難にぶつかって冷静さを失った。

 このままでは考え直してもらうことなど不可能だ。

 けれど、僕が儀式を行うことはできない。
 どうにかして、兄上を説得しなければ……。