Side:柿原(かきはら)恭介(きょうすけ)


「よっ、お疲れー。何見てんの?」

「おわっ、びっくりした。ちょっと調べ物?」

「何で疑問系なんだよ」


 はは、と笑って誤魔化す。

 咄嗟に隠したスマートフォンが俺の心を如実に表していた。

 “信じられない”。
 そりゃあそうだ。超常の力なんて胡散臭い。


「後ろめたいものでも見てたのか~? 恭介(きょうすけ)のことだから、どうせエロいサイトとかだろ」

「ばっ、ちげーよ! いくら俺でも大学の食堂でそんなもん見ねーし!」

「よく言うぜ、講義中に眠気覚ましっつって水着姿の女優見てたくせに」

「それはそれ、これはこれよ。別に面白い話じゃねぇぞ~?」


 イスを引いて隣に座る友人に、隠したスマートフォンを見せる。
 不名誉な誤解をされるよりは、素直に白状した方がマシだ。

 友人が例のサイトを見ている間、俺は中断していた食事を再開する。
 トレーに乗っているのは日替わり定食で、これがなかなかに美味い。


「何だ、これ。“引き受け屋”? 都市伝説か何かか?」

「さぁな。色々調べてみたけど、核心的な情報は出てこないし」

「調べたって、まさかこんなん信じてるのか? 作り話に決まってんだろ」

「だよなぁ」


 友人の言葉に深々と頷く。

 俺だって、“忘れたい想いを代わりに引き受けてくれる”なんてファンタジーな話、信じちゃいない。

 それでも、もしかしたらと期待してしまうのだ。
 本当に、“引き受け屋”なんてものが存在するのなら、俺の妹は……。


「失礼する」

「あぁどうぞ、……って……」


 反対隣から声を掛けられて振り向くと、同じ男とは思えない整った顔立ちがあって目を見開いた。

 すげぇ、芸能人レベル。

 よく見れば、近くを通る人がみんな二度見してこそこそと話している。
 同じ大学に、こんな芸術品みたいな顔した男が通っていたなんて。


「何か?」

「あぁいや、綺麗な顔だなって」

「! おい!」


 言葉にするなら中性美人。
 そんな男の流し目に、不覚にもどぎまぎして心からの本音を漏らすと、隣の友人に小声で咎められた。
 何だ何だと意識が友人に傾いたのは一瞬で、すぐに俺は友人が慌てて小突いてきた理由を知る。