母上には家にも泊まらず、本家にも帰らない第三の案を提案するつもりであったが、都合がいい。
 すぐにでも、本家を尋ねて兄上とお話しよう。

 そう決めた僕は、手に持ったままのスマートフォンで別のところに電話を掛けた。
 コール音がしばらく続いた後、〈はい、奏瀬でございます〉と柔らかな声が聞こえる。


「もしもし、(みやこ)です。母上、今お時間よろしいですか?」

〈えぇ、大丈夫ですよ。都さんからお電話をくれるなんて嬉しいわ。どうしたのですか?〉

「明日の19時、屋敷に伺おうと思います。兄上はご在宅ですよね?」

〈まぁ……! えぇ、えぇ、透さんは明日もお家に居ますよ。ふふふ、ようやく仲直りする気になったのですね〉

「そういうわけでは……いえ、場合によってはそうなるかもしれませんが。今日、兄上の元を尋ねた柿原という男のことでお話がしたいと兄上にお伝えください」

〈分かりました。柿原さんのことで、お話があるのですね。都さん、明日はもちろん家に泊まっていくのですよね?〉


 柿原とは違い、母上は弾んだ声で僕に尋ねる。
 変に期待させてしまっているようで申し訳ないが、すぐに話がつかなかった場合も考慮して、本家に泊まるというのは悪くない手段かもしれない。


「えぇ……ご迷惑でなければ」

〈大切な息子が帰ってくるのですもの、迷惑なわけがありません。みんなにお話して、歓迎の準備をしておきますね〉

「ありがとうございます」


 母上に引き留められて、他の話をしながら覚悟を決める。
 明日、兄上と向き合うのだ。