別のアルバイト先から連絡が来ていないか確認していると、突然スマートフォンが震えだした。
少しばかり遅れて、画面にも表示が出る。
どうやら電話がかかってきたらしい。
相手は知らない番号だ。
「……もしもし?」
〈もしもし、奏瀬……だよな?〉
電話に出ると、若い男の声が聞こえてきた。
あまり聞き覚えは無いように思うが、もしかするとどこかの仕事仲間かもしれない。
「はい、奏瀬ですが」
〈よかった……。あ、俺、柿原だけど、覚えてる?〉
「柿原……?」
仕事仲間にそんな名前の人がいただろうか、としばし考えて思い出した。
こいつはアルバイト関係などではなく、同じ大学でたまたま会っただけの男だ。
食堂で話して以来、試験勉強でよそ見ができなくなったのか、会うこともなかったからすっかり忘れていた。
「あぁ、前に“引き受け屋”を紹介してやった奴か。何故僕の電話番号を知っている?」
〈えっと、奏瀬の兄貴? に教えてもらって〉
「兄上に? 嘘を吐くな、僕の電話番号を知っているのは母上だけ――……!」
詰問するつもりで言おうとした言葉に、自分で引っかかった。
母上なら兄上に教えていてもおかしくないのではないか?
〈うぇ? でも、あの人、奏瀬透? さんだったか、奏瀬の兄貴だろ?〉
「……透は確かに僕の兄だ。頭から否定して悪かった。それで、どんなことになれば柿原が僕に電話してくることになるんだ?」
〈あ、そう! それだよ!! 俺、断られちまったんだ!〉
「何?」
思いがけない話で眉を顰める。
ちらりと部屋を見て、しばらく誰も来ないはずだと記憶を辿ると、気持ち声を潜めて電話に集中した。
〈夏休みに入って真奈美と両親にも“引き受け屋”の話してさ、ようやく許可取ったから今日奏瀬の屋敷に行って来たんだけど、透って人に依頼を断られちまったんだよ〉
「兄上はなんと仰っていたんだ?」
〈それが、弟の学友であれば自分が引き受けるわけにはいかないとかなんとかって。奏瀬に話せって言われたから、連絡先知らないって言ったら、電話番号のメモもらったんだ〉「なっ……!」
まさか、兄上がそんな理由で?
滅多に私情を挟まない方なのに、そんなにも僕は嫌われているのか。
ショックを受けた心に、柿原の弱々しい声が刺さる。
〈俺、どうしよう……これで真奈美を助けてやれると思ったのに、まさか断られるなんて……どんな顔して家に帰ればいいんだよ……!〉
「……。すまない。僕のせいだ。兄上には、僕の方からお話しする。必ず説得するから……待っていてくれ」
〈奏瀬……分かった。頼む。真奈美が、せっかく勇気を出してくれたんだ。このままじゃ、終われない〉
「あぁ……分かっている。ご家族には、儀式の準備に時間がかかるからと話しておけ。後日折り返す」
〈分かった。よろしくな〉
落ち込んだ様子の柿原に罪悪感を抱きながら、通話を切る。
こうなっては、意地なぞ張っていられない。
少しばかり遅れて、画面にも表示が出る。
どうやら電話がかかってきたらしい。
相手は知らない番号だ。
「……もしもし?」
〈もしもし、奏瀬……だよな?〉
電話に出ると、若い男の声が聞こえてきた。
あまり聞き覚えは無いように思うが、もしかするとどこかの仕事仲間かもしれない。
「はい、奏瀬ですが」
〈よかった……。あ、俺、柿原だけど、覚えてる?〉
「柿原……?」
仕事仲間にそんな名前の人がいただろうか、としばし考えて思い出した。
こいつはアルバイト関係などではなく、同じ大学でたまたま会っただけの男だ。
食堂で話して以来、試験勉強でよそ見ができなくなったのか、会うこともなかったからすっかり忘れていた。
「あぁ、前に“引き受け屋”を紹介してやった奴か。何故僕の電話番号を知っている?」
〈えっと、奏瀬の兄貴? に教えてもらって〉
「兄上に? 嘘を吐くな、僕の電話番号を知っているのは母上だけ――……!」
詰問するつもりで言おうとした言葉に、自分で引っかかった。
母上なら兄上に教えていてもおかしくないのではないか?
〈うぇ? でも、あの人、奏瀬透? さんだったか、奏瀬の兄貴だろ?〉
「……透は確かに僕の兄だ。頭から否定して悪かった。それで、どんなことになれば柿原が僕に電話してくることになるんだ?」
〈あ、そう! それだよ!! 俺、断られちまったんだ!〉
「何?」
思いがけない話で眉を顰める。
ちらりと部屋を見て、しばらく誰も来ないはずだと記憶を辿ると、気持ち声を潜めて電話に集中した。
〈夏休みに入って真奈美と両親にも“引き受け屋”の話してさ、ようやく許可取ったから今日奏瀬の屋敷に行って来たんだけど、透って人に依頼を断られちまったんだよ〉
「兄上はなんと仰っていたんだ?」
〈それが、弟の学友であれば自分が引き受けるわけにはいかないとかなんとかって。奏瀬に話せって言われたから、連絡先知らないって言ったら、電話番号のメモもらったんだ〉「なっ……!」
まさか、兄上がそんな理由で?
滅多に私情を挟まない方なのに、そんなにも僕は嫌われているのか。
ショックを受けた心に、柿原の弱々しい声が刺さる。
〈俺、どうしよう……これで真奈美を助けてやれると思ったのに、まさか断られるなんて……どんな顔して家に帰ればいいんだよ……!〉
「……。すまない。僕のせいだ。兄上には、僕の方からお話しする。必ず説得するから……待っていてくれ」
〈奏瀬……分かった。頼む。真奈美が、せっかく勇気を出してくれたんだ。このままじゃ、終われない〉
「あぁ……分かっている。ご家族には、儀式の準備に時間がかかるからと話しておけ。後日折り返す」
〈分かった。よろしくな〉
落ち込んだ様子の柿原に罪悪感を抱きながら、通話を切る。
こうなっては、意地なぞ張っていられない。