「えぇ、構いませんよ。お手伝い致します」

「ありがとう。向こうの準備室なんだ」


 教授が指差した方向へ、共に歩いて行く。
 こういったことは、昔からよくある。
 大学に入ってからは、そもそも生徒数が多いから僕個人に声がかかることは少なくなったが、それでもゼロというわけじゃない。


「いつも助かるよ。奏瀬君は礼儀も正しくて、親切だからねぇ。嫌な顔ひとつせずに、丁寧な仕事をしてくれるから、つい何回も頼んでしまうんだ」

「お褒めいただき光栄です。困っている者を助けるのは当然のことですから、遠慮なさらずお声がけ下さい。それがご教授いただいている先生なら尚更です」

「うんうん、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 そんな話をしているうちに、目的地に着く。
 力仕事というのは、なんてことない、重量のある荷物の整理だった。


「これをあっちに運んでくれるかい?」

「はい」


 結局、昼食後の時間は潰れてしまったが、特に問題もなく大学の講義は終わり、アルバイトに向かって一日が過ぎる。
 勉強、仕事、勉強、仕事、そんな日々の繰り返しだが、悪くはないだろう。

 願わくば、あの柿原という男がこれ以上僕に関わってこなければいいのだが。

 僕は今の日常に満足している。
 奏瀬にはもう、関わりたくないのだ。