大学の食堂で、僕は“妹を助けたい”と願う男と”引き受け屋”について話していた。
名も知らぬ男がさっさと“引き受け屋”に依頼するよう――、あるいは、諦めるように、「昼食を食べ終わるまで」と宣言し質問に答える。
「“引き受け屋”って、やっぱ店みたいなとこ行かないといけないんだよな?」
「正しくは、奏瀬の屋敷だ。基本は客を招いて仕事をするが、過去には指定の場所に出向いたこともある。やむを得ない事情がある場合に限るが……まぁ、相談する価値はあるだろう」
「そっか……家に来てくれるとありがたいんだけどな。あ、そうだ! あとさ、値段がハッキリ書かれてなかったんだけど、ぼったくられたりしねぇよな?」
「そんなことするわけがないだろう。値段を明記していないのは、実際に会わないとどれくらい根深い“想い”なのか分からないからだ」
「あぁ、そっか。……あのさ、奏瀬。ぶっちゃけどこまで高くなんの? 俺ん家金持ちじゃないんだけど……」
恐る恐る尋ねてくる男を横目に、僕は記憶を掘り返す。
奏瀬の家に生まれた者として異能には理解があるが、家業についてはそれほど深く知る前に反発してしまったから、実際僕が知っていることは少ない。
確か、一度くらいはそんな話をしたことがあったと思うが……。
「……具体的な金額は知らん。だが、上がる時は際限なく上がる。もっとも、“引き受け屋”の客は裕福な者ばかりではないから、時間をかけて払うこともできたはずだ」
「分割払いOKってことね……うー、こわっ。いくらになんだぁ?」
「少なくともお前の小遣いで払える金額ではないだろうな。ちゃんと親に了承をとることだ」
「おう……」
誠実な客であれば払える金がなくとも依頼を引き受けるし、悪質な客であれば大金があっても依頼を引き受けないと昔、兄上が話していた。
この男、ひいてはその妹がどちらに転ぶかは分からないが……そこまで話してやる義理はないな。
なんであれ、父上や兄上は誠実なお方。
仕事を依頼して悪いことにはならないだろう。
「……なぁ、奏瀬。俺ん家来てくれねぇ?」
「は? どうして僕が知り合いでもないお前の家に行かなければならないんだ」
「あ、そういや俺自己紹介してなかったな。柿原恭介だ。奏瀬と同じここの1年。よろしく」
「……お前と今後付き合う気はない。名前を聞いた以上、礼儀として名乗りはするが、それまでだからな。……奏瀬都だ」
「はは、嫌なら名乗んなきゃいいのに。奏瀬って冷たいけど良い奴だよなー」
「うるさい」
ただの礼儀だと言ったのに、この男、さらに馴れ馴れしくなっていないか?
名前を知る気も、覚える気もなかったが、自己紹介をされてはちゃんと名前で呼ばなくてはいけない。
さすがの僕も、そこまで無礼な振る舞いはできん。
「で、話戻るけど。俺ん家来てくれないか? 俺1人じゃ上手く説明できる気がしねぇし」
「柿原にそこまで付き合う義理はない。僕を巻き込むな」