向こうから近付いてくると僕が避けなくてはいけないから、鬱陶しいことこの上ない。


「互いに影響し合うことはあるが、思考と“想い”は別物だ。次の質問は?」

「そうだなー、心が読めるのは分かったけど、“想い”を昇華するってどういうことなんだ?」

「奏瀬は人に触れることで“想い”を感じ、修行を積むことで人の”想い”を内に招き入れることができる。“引き受け屋”はそこからさらに、招き入れた他者の“想い”を消化するんだ」

「消化?」


 突拍子もない話で理解できていない、という顔だ。
 僕は男にも分かりやすいように、いつか聞いた話を口にした。


「人間には涙を流すことで“想い”を消化する機能が存在している。悲しい時や辛い時、悔しい時に涙を流してすっきりした経験があるだろう?」

「あぁ、確かに。言われてみればそうだな」

「奏瀬はその機能を使って、引き受けた“想い”を完全に消化……言い換えて、昇華するんだ」

「はー……なんか分かったような、分かんないような」

「ふん。まぁ、理解できずとも問題はない」


 “引き受け屋”も良い側面ばかりではない。
 が、それに関しては今この男に言う必要はないだろう。

 どうせ、詳しい説明は本家の方でするんだ。
 僕には関係ない。



 大学の食堂で例の男と出会ってしまった僕は、不意の接触をきっかけに男の“想い”を感じ取った。

 切実な“想い”というのは、人の心を打つものだ。
 けれど、それが強い“想い”であるほど、僕は恐ろしくなる。

 奏瀬の力は、残酷なものだから。