全く、僕にどうしろと言うんだ……。

 思わず溜息を漏らして額を押さえる。
 この場はどうにか凌いで、母上が満足する別の代替案を提示するしかない。
 とにかく、母上相手にこの場で勝負してはいけない。


「分かりました。考えさせてください。今は試験も控えていますから」

〈えぇ、良いお返事を期待しています。男子に二言はありませんものね?〉

「……申し訳ありませんが、大学の課題を終わらせなければならないので、これで失礼させていただきます」

〈分かりました。頑張ってくださいね、都さん〉

「はい。それでは、失礼いたします」


 強引に通話を切り、壁に背中をもたれる。
 どっと疲れた。


「はぁ……さっさと課題を終わらせて、今日はもう寝よう」


 いくつか予定していた作業は別の日に回して、今日やらなければいけないことだけを頭の中で整理する。
 試験前の時期だ、僕には慌てて勉強する必要はないが、母上のことだからしばらくは電話をかけてこないだろう。

 話をするなら、試験が終わる頃。
 それまでに他の案を考えておくとしよう。


 父上が病に倒れたという報せは、母上のタチの悪い冗談であったが、本題は“僕を奏瀬(かなせ)の本家に帰らせること”であった。
 どこまでが本気かも分からない話に振り回されて、「穴埋めをする」と言質を取られてしまった僕は、ひとまず時間を稼ぐことに成功する。
 しかしながら、“母上が家に泊まりに来る”ことも“僕が本家に泊まりに行く”ことも阻止する方法を考えることとなった。