ふわ~ぁ、と稜市(りょういち)は欠伸を漏らす。
 近くに引っ越してくると言った静蘭(せいら)一家は、2週間後となる今も音沙汰無しであった。
 稜市の方から連絡を入れてみても、連絡先が変わっているのか、届かなかった旨を伝える折り返しメールが来るのみだ。


「ん~……なんだか外が賑やかだなぁ……」


 無精ひげの前を通過させて、マグカップに入れたコーヒーに口をつけると、稜市はそう呟く。
 玄関の方からは、確かに人の話し声のようなものが聞こえてくるのだ。

 そんな風に、稜市がのんびり休日を謳歌していると、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「はぁい」


 よっこいせと腰を上げて玄関に向かった稜市は、扉を開けた瞬間「わーい!」と家に侵入した2人の少女に既視感を覚える。


「んん……?? たまごちゃん?」

(りょう)ちゃん、おっひさー! ねぇねぇきいて! あたしたちね~」

「おとなりに、ひっこしてきたよ……これから、よろしくおねがいします……」


 廊下で振り返って家主に挨拶したのは、黒髪をポニーテールにした蘭桜(らんおう)と、茶色い髪をふんわりボブにした蘭朴(らんぱく)
 稜市は変わらない2人の姿を眺めながら、パチ、パチと瞬きをした。


「……いや、近くに来すぎじゃない……?」

「わぁ~! お兄ちゃん! レンジが爆発しちゃったぁ!」

「あ、静蘭さん。本当に隣から出てきたねぇ……というか、引っ越し早々何してるの」


 1週間前まで老人が住んでいた隣室から飛び出してきたのは、おっとりした風貌の静蘭だ。


「卵をチンしたら、ボンッて……!」

「そりゃあ、黄身にお箸刺しておかないと……」

「レンジで目玉焼きが作れるって聞いたのに~……」

「「めだまやきなんて、きらい(……)!」」

「あぁ、もう……また、賑やかになりそうだなぁ……」


 稜市宅の中から声を揃える2人の少女と、マイペースな妹に挟まれて、稜市は晴れた空を見上げながら呟く。
 これからも、稜市と蘭桜、蘭朴、そして静蘭のドタバタした日常は続いていくのであった。



[終]