「ふん!」

「つん……」

「ごめんね。目玉焼きは、おじさんが食べるよ。だから、一緒に帰ろう? たまごちゃんがお腹を空かせて、ここで寝るの、おじさんは嫌だなぁ」

「「……」」


 蘭桜と蘭朴は口を閉ざしながらも、迷うように目を合わせる。
 稜市はさらに言葉を重ねた。


「おじさんとも、明日でお別れでしょ? 最後の晩ご飯は、3人で一緒に食べたいなぁ」

「……ぜったいぜったい、めだまやきは食べさせない?」

「稜くん、はんせいしてる……?」

「うん。目玉焼きはおじさんが食べます。苦手なものを出して、ごめんね」


 稜市がぺこりと頭を下げて謝ると、2人は顔を見合わせて、立ち上がる。
 顔を上げた稜市は、いつも通りの笑顔を浮かべている2人を視界に収めた。


「しょうがないから、ゆるしてあげる!」

「もう、しないでね……稜くん、お家、かえろ……」


 稜市はホッとしたように目を細めて、「うん」と答えた。
 右に蘭桜、左に蘭朴。3人で手を繋いで家に帰ると、稜市は2人に出した目玉焼きを下げ、自分の前に並べる。
 きゃっきゃと楽しそうに話し、美味しそうに夕飯を食べる2人を見ながら、稜市もゆっくり箸を進めた。

 そして、食事を終えた頃。稜市は1人呟く。


「しばらく目玉焼きは、食べなくていいかなぁ……」

「稜ちゃんもめだまやき、きらいになったの? それじゃあ、なかまに入れてあげる!」

「稜くんだけだよ……ママは、めだまやき、すきだから……」

「あはは、ありがとう」


 その夜は、3人、川の字で穏やかに眠った。