自由奔放な蘭桜(らんおう)蘭朴(らんぱく)と、短くも濃厚な時間を過ごした稜市(りょういち)は、夕飯の支度をしながら感慨深く呟いた。


「たまごちゃんを預かるのも、明日まで、かぁ……」


 最初から人懐っこい2人ではあったが、この2日間でより3人の仲が深まったのは言うまでもない。
 何せ朝から晩まで一緒に過ごしているのだ。

 稜市はふと口元を緩めて、冷蔵庫からとある食材を取り出した。
 しかし、それをフライパンに落としてしまったことが、全ての元凶だったのだ。



 ――――――――

 ―――――

 ―――


(りょう)ちゃんなんて……だいっきらい!!」

「稜くん……わたし、こういうの、いやだ……」


 夕飯が並んだ食卓の向こう側で、蘭桜と蘭朴は険しい顔をして稜市を睨む。
 稜市は2人から初めての感情を向けられたことに驚いて、パチ、パチと瞬きをした。


「ええ……そんなに嫌いなの、目玉焼き」

「きらいきらい、だーいっきらい! 稜ちゃんなんてもうしらない!」

「めだまやきは、食べものじゃない……稜くんが、そんな人だとは、おもわなかった……」


 蘭桜と蘭朴は立ち上がると、2人で目を合わせ頷いて、走り出す。
 稜市が止める間もなく、2人は家を出て行ってしまったのだった。


「あ、ちょっと……! うーん、そんなに嫌なんだ……“たまご”ちゃんなのに」


 稜市はどこか呑気に呟くと、腰を上げて、2人を追いかけに家を出た。



****


「どこまで行ったんだろ……(おう)ちゃーん。(ぱく)ちゃーん」


 街路灯がなければ歩きにくいほど暗い道を進んで、稜市は辺りを見回す。
 そのうち、初日に2人と遊んだ公園に着いた。


「あ……いた。桜ちゃん、朴ちゃん」

「稜ちゃんなんてしらないもんっ!」

「わたしたち、かえらない……」

「お母さんがかえってくるまで、ここでまってる!」


 滑り台の下に2人並んで座っていた蘭桜と蘭朴は、稜市を一瞥して、ぷいとそっぽを向く。


「そっかぁ、ここにいるつもりなの? お腹、空かない? 布団もないよ」

「めだまやきなんて、食べないもん!」

「おふとん、なくても、ねむれる……」


 2人の前にしゃがみ込んだ稜市は、もう一度「そっかぁ」と言って、小首を傾げた。


「桜ちゃん、朴ちゃん」