「わーい! ねぇ稜ちゃん、ここにはゲームあるの!?」
「おじゃまします……稜くん家、かわいいもの、ないのね……」
「わー、元気だなぁ……走ったら危ないよ~。ゲームはねぇ、うーん、女の子が楽しめるもの、あったかなぁ」
静蘭を見送ってすぐ、家の中へと入っていった2人を眺め、稜市は大きなバッグを持ってのんびりリビングに戻る。
これは、静蘭が最後に預けていったものだ。中には、2人の女の子が1週間は外泊できるセットが入っているらしい。
稜市はそれに関して、「自分で準備してくれるなんて、大人になったなぁ」とコメントしている。
「あっ! これコーラ? ねぇ稜ちゃん、これ飲んでいーいっ?」
「うん? コーラは無かったはずだけど……あ」
ひとまずお泊まりセットを床に置き、ゲームを探していた稜市は、振り向いて蘭桜のもとに急ぐ。
イスに登り、テーブルの上から蘭桜が両手で持ち上げたマグカップ。その中身に気付いた稜市は、後ろからそれを取り上げた。
「ちょ~っと待ってね。コーヒーって子供に飲ませてよかったっけ……えぇっと、スマホスマホ……」
「稜くん、はい……」
ポケットを触りながら、あちこちに視線を向ける稜市にスマートフォンを差し出したのは、蘭朴だ。
可愛らしくデフォルメされたサメのぬいぐるみを、器用に抱いている。
「あぁ、ありがとう、朴ちゃん。……ん~?」
「かわいくなるように、シール、はってあげたよ……」
背面がざらりとすることに気付いて、スマートフォンを裏返した稜市は、悪気の無い自供によってすぐに犯人を知った。
およそ30代前半の男性が持つスマートフォンとは思えないくらい、目の前のカバーは可愛いシールで埋め尽くされている。
「そっかぁ……ありがとねぇ」
「うん……」
稜市がお礼を言えば、蘭朴はふわりと微笑んだ。
低い頭を撫でつつ、気を取り直して[コーヒー 子供]と調べると、いくつかのサイトが出てくる。
「う~ん……2人とも、何歳?」
「7才……2年生だよ」
「7さーい!」
「そっかぁ、それじゃあ、あんまり飲まない方がいいかなぁ。……って、桜ちゃん、いつの間に」
遠くから聞こえた声に、稜市が遅れて振り返ると、蘭桜は先ほど稜市がいた場所でゲームを漁っていた。
「コーヒーはいいの」と、稜市の呟きが虚しく落ちる。
「あっ、これやりたーい! 稜ちゃん稜ちゃん、これどこに入れるのー?」
「はいはい……あぁ、ちょっと待って、おじさんが入れるから」
「お花、かざってあげる……まっててね、アパートの下で、見たの……」
「朴ちゃーん? あぁ、待って、おじさんも一緒に行くから、1人で行かないで」
そんな調子で、稜市は出会った初日から2人の少女に振り回されるのであった。