ヒキも騒音で迷惑をかけられてはいるが、滅多に出かけず家に引きこもっているらしいお隣さんを何かと気にかけて、料理を持って行ったりしている。
訪ねても出てこないので、インターホンを一度押してから玄関前に置いて行くのが通例であり、翌日それが無くなっているのを確認すると、数日後に容器がヒキ宅の玄関前に返却される。
そんな奇妙な付き合いだが、いつも洗われた容器に[ありがとうございます。美味しかったです]と手紙が添えてあるので、ヒキも悪い気はしていなかった。
《うちの隣も差し入れしたら手紙付きで返してくれんだよなー》
《その人とは気が合いそうだ。俺も食べた後はちゃんと洗って感謝の手紙を添えることにしている》
《お、えらいな~。カーテン愛してるとか言う変人とは思えないね》
《カーテンをバカにするな!》
思わず声を出して笑うヒキから離れて、一方のタヒは憤りながら、「あ」と光の遮断された薄暗い部屋で声を漏らす。 目の前のパソコンから視線の行方を移して、洗い終わって乾いたタッパーを認めると、「返しておかないとな」と独り言を呟いた。
タヒの隣人は、調子が悪い時何故かいつも気付いてくれて(それは長らく物音を立てないからだが)、「大丈夫っすか?」と玄関の外から聞いてくる。
対応したことはないし、顔を合わせる気は今のところないのだが、それでも親切にしてくれる人が近くにいると実感出来る環境では救われることも多かった。
隣人に恵まれたとタヒは思っているし、隣人を尊敬してもいる。
《そうだ、ヒキ。お隣さんに世話になってる礼をしたいんだが、何がいいと思う?》
《礼? そうだなー、俺は騒音どうにかして欲しいけど。何か菓子とかでいいんじゃね?》
《菓子か……通販で買ってみよう》
ヒキは間違いなくオカン属性だと確信しているタヒは、自称常識人である彼のアドバイスを割と信用している。 実際に行動に起こす時は大抵タヒなりのアレンジが加わることにはなるのだが、基本はアドバイス通りにすることが多い。
その為、今回も通販サイトを開くとタヒは菓子類で検索し、試行錯誤した結果、"料理作るみたいだし菓子も作るかもしれない"との思考からボウルを買う事にした。
もちろん、もし菓子は作らない人でも持て余さないようにと考えてのチョイスだ。
《お隣さんへのお礼はボウルにすることにした》
《ちょっと待て、何がどうしてそうなった?》
後日、タヒが洗い終わったタッパーと共に届いたボウルを隣人にプレゼントすると、ヒキからチャットが来る。
《今日、帰って来たら玄関前に容器と一緒にボウルが置いてあったんだが》
《ほう。それは奇遇だな。俺も今日お隣さんにプレゼントしてきた》
《俺は今タヒと同じレベルのやつがめちゃくちゃ近くにいたことにショックを隠せないでいる》
《実質俺が隣に住んでいるようなものだな》
ヒキとタヒはそうして、長年続いた関係をこれからも続けていく。
時に馬鹿なことを、時に真面目なことを画面越しに話す二人は、お互いが隣室というとても近い距離にいることに今日も気付かない。
「お、隣から容器返ってきたな。なになに? "いつもありがとうございます"……へへ、やっぱ悪い人じゃないんだよなぁ。ただ騒がしいだけで」
「今日も料理を頂いてしまった……また何かお礼をしなければ。何がいいか、ヒキに相談してみよう」
《お隣さんにお礼がしたい。何がいいだろうか?》
fin.
訪ねても出てこないので、インターホンを一度押してから玄関前に置いて行くのが通例であり、翌日それが無くなっているのを確認すると、数日後に容器がヒキ宅の玄関前に返却される。
そんな奇妙な付き合いだが、いつも洗われた容器に[ありがとうございます。美味しかったです]と手紙が添えてあるので、ヒキも悪い気はしていなかった。
《うちの隣も差し入れしたら手紙付きで返してくれんだよなー》
《その人とは気が合いそうだ。俺も食べた後はちゃんと洗って感謝の手紙を添えることにしている》
《お、えらいな~。カーテン愛してるとか言う変人とは思えないね》
《カーテンをバカにするな!》
思わず声を出して笑うヒキから離れて、一方のタヒは憤りながら、「あ」と光の遮断された薄暗い部屋で声を漏らす。 目の前のパソコンから視線の行方を移して、洗い終わって乾いたタッパーを認めると、「返しておかないとな」と独り言を呟いた。
タヒの隣人は、調子が悪い時何故かいつも気付いてくれて(それは長らく物音を立てないからだが)、「大丈夫っすか?」と玄関の外から聞いてくる。
対応したことはないし、顔を合わせる気は今のところないのだが、それでも親切にしてくれる人が近くにいると実感出来る環境では救われることも多かった。
隣人に恵まれたとタヒは思っているし、隣人を尊敬してもいる。
《そうだ、ヒキ。お隣さんに世話になってる礼をしたいんだが、何がいいと思う?》
《礼? そうだなー、俺は騒音どうにかして欲しいけど。何か菓子とかでいいんじゃね?》
《菓子か……通販で買ってみよう》
ヒキは間違いなくオカン属性だと確信しているタヒは、自称常識人である彼のアドバイスを割と信用している。 実際に行動に起こす時は大抵タヒなりのアレンジが加わることにはなるのだが、基本はアドバイス通りにすることが多い。
その為、今回も通販サイトを開くとタヒは菓子類で検索し、試行錯誤した結果、"料理作るみたいだし菓子も作るかもしれない"との思考からボウルを買う事にした。
もちろん、もし菓子は作らない人でも持て余さないようにと考えてのチョイスだ。
《お隣さんへのお礼はボウルにすることにした》
《ちょっと待て、何がどうしてそうなった?》
後日、タヒが洗い終わったタッパーと共に届いたボウルを隣人にプレゼントすると、ヒキからチャットが来る。
《今日、帰って来たら玄関前に容器と一緒にボウルが置いてあったんだが》
《ほう。それは奇遇だな。俺も今日お隣さんにプレゼントしてきた》
《俺は今タヒと同じレベルのやつがめちゃくちゃ近くにいたことにショックを隠せないでいる》
《実質俺が隣に住んでいるようなものだな》
ヒキとタヒはそうして、長年続いた関係をこれからも続けていく。
時に馬鹿なことを、時に真面目なことを画面越しに話す二人は、お互いが隣室というとても近い距離にいることに今日も気付かない。
「お、隣から容器返ってきたな。なになに? "いつもありがとうございます"……へへ、やっぱ悪い人じゃないんだよなぁ。ただ騒がしいだけで」
「今日も料理を頂いてしまった……また何かお礼をしなければ。何がいいか、ヒキに相談してみよう」
《お隣さんにお礼がしたい。何がいいだろうか?》
fin.