《俺はカーテンを愛してる》
《頭大丈夫か?》
ネ友からの突然のチャットに、ヒキは辛辣なコメントを返した。
(また変なこと言い出したよコイツ)
自称在宅勤務のハンドルネーム『タヒ』はただの引きこもりの変人であると、ヒキは長い付き合いで分かっていた。
《待って、聞いてくれ》
《三行以内で》
《おれにっこうきらい
いきてられるのかーてんのおかげ
かーてんまじあいしてる》
《ひらがな読みにくいな、おい》
《失礼、とにかくカーテンのおかげで俺は昼間も生きていられる》
《そらよかったな》
まさかその程度のことでチャットしてきたのか。
いや、きっとその程度のことでチャットしてきたんだろうな。
タヒからのチャットっていつもこんなんだし、とヒキは溜息を吐いて後ろのベッドに背中を預けた。
ヒキは一人暮らしの一般的な社会人男性だ。
少なくとも、本人はそう思っている。
それが、ハンドルネームのせいで引きこもり仲間だと勘違いされて、こうしてタヒと親交を持つようになったのは5~6年前のこと。
とっくにその誤解は解けているが、何だかんだで交流は細々と続いているのである。
《お前チャット欄見返してみ? 久しぶりの連絡でカーテン愛してるとかタヒくらいしか言わないからな》
《おお、もう3ヶ月も経ってるな》
《生存報告にしてもカーテン愛してるはないわー》
《いやいや、カーテンは真面目に素晴らしいんだ。この世の神と言っても過言じゃない!》
《過言だろ、どう考えても》
そうチャットを送ったところで、隣の部屋からドンドンと鈍い音が聞こえてきて、ヒキはあちらさんもか、と半目になった。
彼はマンションの一室を借りて住んでいるのだが、未だ一度も顔を合わせたことがないお隣さんはなかなかに元気なのだ。
大音量で音楽やアニメらしき音声を流していたり、つい先程のように大き過ぎる物音を立てたりするので、ヒキは早く引っ越したいと常々思っている。
(しかし、最近は大人しかったのに……隣も同時に生存確認できたな)
口は悪いのにお人好し、というのがヒキに対するリア友からの評価だ。
《前はなんだっけ? 布団愛してるだっけ?》
《それは大分前の話だろう。もちろん今も布団は愛しているが、一番に輝くのはカーテンだ!》
《はいはい。で、飯とかちゃんとしてんの?》
《ああ、前にも言ったことがあると思うが、お隣さんがよく手料理をくれてな》
《もらったらちゃんと食えよー。腐らせたら失礼だからな》
《そんなことはしない。ちゃんと大事に食べてる》
タヒの方も相変わらずのようだ、とヒキは麦茶を飲んで笑う。