白く清らかな花の名をもつ少女は、まさに百合の花そのものの純粋で高潔な魂をその身に宿していた。
 それを、俺は愛した。

 でも、他人のために純粋な怒りに燃え、それを隠すことを知らない彼女の人生には、きっと多くの困難が待ち受けているのだろう。
 危険な目に遭うこともあるかもしれない。

 心配だ。ずっと側にいて、守ってやりたい。
 当たり前のように、そう思った。

 次の瞬間、無理だと気づく。
 だって俺は、あと何日とも知れない命だ。
 もしかしたら明日の今頃にはすでに死んでいるかもしれないのだ。

 時間が永遠に続くことなどない。
 むしろ一瞬だ。

 この幸せなひとときは、たった一瞬、人生の終わりに神様が俺を憐れんで見せてくれた、儚い夢幻のようなものだ。

 老夫婦とすれ違った。
 目尻の皺を深くしながら、互いを慈しむように見つめ合っている。

 羨ましかった。
 でも、俺にはあんな未来は決して訪れないのだ。

 百合と永い時間を共に過ごすことも、年老いるまで側にいることも、俺にはできない。

 そんなことは考えないようにしようと必死に自分に言い聞かせているのに、どうしようもなく、悔しいなあ、と思った。

 悔しいなあ……。
 一緒にいられないのが、守ってやれないのが、こんな時代に生まれてしまったのが、悔しい。
 本当に悔しい。

 でも、それはどうしようもないことだ。
 受け入れるしかないのだ。

 大切な人たちの日々の暮らしを、命を、未来を守るために命を懸けることが俺の運命で、俺の使命だから。
 たとえ無駄死にになるかもしれなくとも、万にひとつの可能性に賭けて、俺は征くのだ。

 死んだらどうなるのだろう。
 肉体が死んだらこの魂はどこへ行くのだろう。
 輪廻転生というのは本当にあるのだろうか。

 もしも本当に生まれ変わることができたら、
 俺はまた百合を見つけて、今度こそずっと側にいたい。
 永い時を共に過ごしたい。
 どうか叶いますように――。

 つないだ手に力を込めながら、俺はそう願った。




SIDE:彰 fin.