五勇戯貴族〜俺たちは勇者に憧れ冒険者になった。だけど英雄になれと言われたので、勇者になる夢を抱いたままその道を進もうとおもう〜*願望の宝玉編*

 リューセイ達がゴブリンらと戦っている最中。願望の宝玉があるとされる洞窟の最深部では、その様子を透視しながら監視している者がいた。

 だが現状では黒い霧で姿を隠しているため、表情やしぐさ以外何者なのか確認できない。

 「クスッ。この宝玉を求める愚かな者が、やっと現れたようですね」

 すこし考えたあと再び語り始める。

 「ですが。--この程度の魔物に苦戦しているようでは、この者たちも本命ではないという事でしょうか? ……まぁいいですわ。それならそれで、」

 そう言い不敵な笑みを浮かべた。

 (--フフッ。もし仮に、たどり着いたとしても。彼らにとって、ここには絶望しかないのですから……)

 そう思いながら再びリューセイ達の様子をみる。

 「さてその前に、この場をどう切り抜けるのでしょう。フフフフッ……さぁ、どうなるか楽しみですわ」



 場所は移り、ここは森の中。

 リューセイとクライスは、襲いくるゴブリン達の攻撃をまともに受けながらも必死で倒していた。

 そんな中リューセイは、ふとゴブリンの数が増えているような気がし疑問におもう。

 (さっきよりも、数が増えてる気がする。もし仮にそうだとして、いったいどこから湧いてくるんだ?)

 そう思い攻撃しながら、ゴブリンが現れる方向をよく観察してみる。

 (ん? これって! ほとんどのゴブリンが同じ場所から現れている。って事は--なるほどそういう事か。
 もしかしたら、この先にボスがいるかもしれない。ん〜だけどちょっと待て。もしそうだとしたら、どうやって現れているんだ?)

 そう納得するも、どうやって現れているのか分からず悩んでしまった。



 一方クライスは、どんなに倒してもゴブリンがあとからあとから湧いてくるためイラッとしている。

 (クソッ、、……。なんなんだこの数は? 吹きとばした数より、間違いなく増えている。だが、そもそもなんでだ?)

 そう思うが、それ以上かんがえる能力……あーいや、そんな余裕もなくただひたすらゴブリンを倒していった。



 そのころイシスは、大きな木の陰に隠れながらブルブルと震えていた。

 (まさか、こんなにゴブリンが現れるなんて。--ですがいつまでも、ここで身を隠しているわけにもいきませんし)

 そう思いリューセイとクライスのほうに視線を向ける。

 「ヒッ!?」

 だがゴブリンの大群をみるなり、怖くなり再び木の陰に身を潜めた。

 (やはり私ではムリです。あんな恐ろしい生き物を相手にするなど)

 身を震わせそう思っていると、そこにルルカが現れイシスをのぞきみる。

 「ねぇ、みんなが必死に戦ってるのにさぁ。あなたはここで何をしているの? 見た目はそんなだけど、一応男なのよね?」

 そう言われイシスは、ムッとした表情でルルカをみた。

 「な、なんなんですか!? いきなり現れたと思ったら。見ず知らずのあなたに、そこまで言われる筋合いはありません!」

 「ふぅ〜ん。確かにそうだね。じゃぁさぁ、言われたくないなら戦ったらどうかなぁ」

 そう言いルルカはジト目でイシスをみる。

 「そ、そう言われましても、」

 イシスはルルカに言われるも、どうしたらいいかと悩みモジモジし始めた。

 それを見たルルカは、イライラし始める。そして、『プチッ』と何かが切れた音がした。

 「あーいい加減イライラする。男ならもっとシャキッとしなさいよ!」

 そう言いイシスの顔に、パシッ! とビンタを食らわす。

 「ちょ、いきなり何を!?」

 イシスはビンタされ一瞬、泣きそうになる。だが、怒りのほうが勝りルルカの手を強く握った。

 「へぇ、意外と力があるじゃない。てかさぁ、私に食ってかかる気力がそんだけあるなら。仲間を助けたらどうなの?」

 そう言いルルカは、リューセイとクライスのほうを指さす。

 イシスはルルカにそう言われ、ハッとする。

 (確かにこの人のいう通りです。私がここでゴブリンを恐れ隠れているあいだも。リューセイ達はキズを負いながら必死に戦っている。なのに私は、)

 「ありがとうございます。確かにあなたのいう通り。私は恐ろしさのあまり、あやうく仲間を見捨てるところでした」

 イシスはそう言うと軽く頭をさげたと同時に、キリッとした表情へと一変させた。

 「ふぅ〜ん。やっとやる気になったみたいだね。それに、今のほうがまだ男らしくみえるよ」

 そう言いルルカは、ニカッと満面の笑みを浮かべる。

 「はぁ、そうでしょうか……」

 イシスはそう言うと顔を赤らめた。そう男らしくみえると言われた事と、ルルカの笑顔が余りにも愛らしく思えたからである。

 (えっと。この胸の高鳴りは……。まさか、この私が彼女を?)

 自分がいだいている今の気持ちに対しイシスは、信じられないと思いボーっとルルカを見つめた。

 それを見たルルカは、再びジト目でイシスをみる。

 「なんで、急にほうけてるのよ!」

 「あっ! そうでした」

 ルルカに急かされイシスは、リューセイ達のほうを向きつえを持ち身構えた。

 「じゃせっかくだから、私も加勢するわね!」

 「いえ、木の陰に隠れていてください。私があなたを守ります!」

 イシスがそう言うとルルカは、一瞬「……」となる。その後、われに返り苦笑した。

 「ハハハ、あ、ありがとう。そうねぇ、あなたの実力もみたいし。でも、ムリと判断したら私も加勢するからね」

 そう言うとルルカは木の陰に隠れる。

 「ええ、その時はお願いします。ですが、あなたの前で、」

 (いえ、これは今は言わないでおきます。まだこの気持ちが本物かも分かりませんので……)

 そう思いイシスは、いだいているこの気持ちをグッとこらえ胸の奥にしまった。



 片やアベルディオはその光景を見ていた。

 (あの人は、確か俺たちのあとをつけてきていたルルカ。ん〜あの様子だと、イシスの事が見ていられず出てきたみたいだな。
 ってかイシス。おまえ……。はぁ、女の趣味をとやかく言うつもりはないが。よく相手を選んだほうがいいと思うぞ)

 そう思い頭を抱えると「ハァ〜」と息を漏らす。

 (まぁいいか。状況がどうあれ、イシスがやる気になったのならな)

 アベルディオはニヤリと笑い、再びリューセイ達のほうをみる。

 そしてその後アベルディオは、何が起きてもいいように臨戦態勢をとるのだった。
 リューセイとクライスは、ゴブリンの大群に攻撃されながらもひたすら戦っていた。

 そんな二人の様子をみながらアベルディオは、いつでも対処できるように身構えている。

 (すまない、二人とも。魔法で攻撃することができれば、俺もおまえ達と一緒に戦えるのに、)

 アベルディオは、そんな自分に対しはがゆく思えた。



 一方ユリエスは、木の上からクロスボウを構えていた。そして、ゴブリンキングに狙いを定めている。

 (ふぅ〜。下で二人が話をしてたから。ゴブリンに気づかれないかって、ヒヤヒヤしたけど心配ないみたい。
 今はリューセイとクライスだけしか、眼中にないってことは……。これなら、もしかしたらなんとかいけそうかも!)

 そう思いながら、クロスボウの台座に描かれている魔法陣に手を添えた。

 《シューティング!!》

 そう唱えユリエスは、ゴブリンキングの方へと矢を発射する。

 「イケェー! あたれぇぇ〜」

 ユリエスはスコープ越しからそう願い矢の向かう先をみた。



 そのころイシスは、つえを構えながら考えていた。

 (ゴブリンを攻撃するにも、これではリューセイとクライスを巻き添えにしてしまいます。ですが、こうやって考えている間も二人は)

 「……ハッ! そうでした。こんなことを考えてる場合じゃありません。それに、そもそも選択肢は一つしかないのですから」

 そう思いイシスは、つえを斜め前に翳すと詠唱し始める。

 《天を制する聖なる光よ 雷鳴を轟かせ 暴れまわれ--ライトニング バースト!!》

 そう唱えると、つえが金色の光を発した。それと同時に、つえから魔法が空へと放たれる。

 すると空が急に暗くなり、辺り一面に雷鳴が響き渡った。そう思った瞬間、稲妻がゴブリンの大群に落ちながら爆発していく。

 リューセイとクライスは、それに気づき慌ててその場から離れようとする。だが時既に遅く、その爆発に巻き込まれた。

 それをみたアベルディオは、急ぎ防御魔法を放ち二人を結界で覆いつくす。

 「クッ、少し遅かったか。まぁ、あの二人なら大丈夫だろう。だがイシス、やりすぎだ!」

 そう言いアベルディオは頭を抱えた。



 それと同時ぐらいに、ユリエスが放った矢はゴブリンキングの方に向かっていた。

 その矢は途中、イシスが放った魔法をかすめる。

 だがその矢に魔法が当たるも減速するでもなく、そのままゴブリンキングの方へとまっしぐらに向かっていった。

 そしてその矢は、イシスの魔法が付与された状態でゴブリンキングの胸を貫く。

 「グオォォォォ〜!!!」

 ゴブリンキングは驚きと痛さのあまり、大きな声を張り上げ泣き叫びながら暴れだす。

 そしてドカドカと地響きをたてながら、猛スピードでリューセイとクライスの方へと駆けだした。

 それを見たリューセイ達とルルカは、どうしようかとアタフタする。

 「って、おい! なんで、あんなのが森の奥にいる!?」

 そう言いクライスは、逃げようとしたが結界が張られているためにそこから出られない。

 「……この結界は! アベルの仕業か? これじゃ逃げられん。おい、結界を解いてくれ!」

 それを聞きリューセイは、結界をコンコンと叩いてみる。

 「なるほど、結界か。クライス、ここから出ない方がいい」

 そう言いニヤリと笑みを浮かべた。

 「リュー。それって、どういう事だ?」

 「さすが、アベルディオだ。この結界なら、ゴブリンの攻撃を防げる。ただ攻撃はできないけどな」

 「なるほどな。そういう事か。それなら大丈夫そうだな」

 そうクライスが納得すると二人は、魔法が解けるまでのあいだ結界の中で戦況を伺うことにする。



 片やアベルディオは、自分のほうに向かってくるゴブリンの大群に戸惑っていた。

 「これはまずい。どこかに逃げなければ」

 そう言うと辺りを見まわす。

 「って! この状況では、どこにも逃げられない。どうしたら、」

 アベルディオはそう思うが、気持ちばかりが焦り考えがまとまらない。

 そうこうしているとゴブリンキングは、リューセイとクライスの約五百メートルぐらい離れたあたりで立ちどまる。

 そしてゴブリンキングの胸を貫いたその矢は、そのままの状態で激しい光を放ち始めた。

 それと同時に、空から稲妻が落ちゴブリンキングを直撃する。

 そしてその直後、胸に刺さった矢が『バァーン!!』と暴発しゴブリンキングは森の奥へ吹きとばされた。

 近くにいたゴブリンは、その爆発に巻き込まれ四方八方に吹き飛ばされる。

 その爆風は、リューセイとクライスの方まで及んだ。だが、結界のおかげで難を逃れた。

 生き残っているゴブリン達は、何が起きたか分からずその場に佇みキョトンとする。

 そして我に返り、一斉にゴブリンキングが出てきた方角をみた。すると、なぜか森の奥へと歩きだし姿をけす。

 それを確認するとアベルディオは、リューセイとクライスにかけた結界を解いた。そして、二人の方へ歩みよる。

 そのあとを、イシスとルルカが追った。それを追うようにユリエスは、木から降りリューセイ達の方へと向かう。

 その後五人とルルカは、リューセイとクライスのキズを癒すために、少しここで休むことにした。
 ここは願望の宝玉がある洞窟の最深部。

 透視しながら謎の影は、リューセイ達の動きを監視していた。

 「フフフ……。これは思っていたよりも、各々その装備にみあう能力を持っているようですね。ですが、まだです」

 そう言い不敵な笑みを浮かべる。

 「そうここにたどり着いた時、彼らを英雄になる者とし認めましょう。しかしながら。それはここで絶望し、すべてが夢まぼろしとなり潰えるのですがね」

 謎の影は、ふとあることに気づいた。

 「これは、なんてことでしょう。イレギュラーが一人。あの女、邪魔ですわね。さぁどうしましょうか」

 そう言うと考え始める。

 (そうですねぇ。彼女が洞窟に踏みいったら、森の外に転移するようにワナを張っておいたほうが良さそうですね)

 そう思い謎の影は、その場を離れ洞窟の入口へと向かう。

 そしてワナを張るとこの場所に戻ってきたのだった。



 場所は移り、ここは洞窟の入口付近。

 あれからリューセイとクライスは、アベルディオとルルカの魔法で回復してもらった。

 魔法を使ったアベルディオとイシスとルルカは、洞窟で何が起きるか分からないのでメマの実を食べ魔力を回復する。


 __ちなみにメマの実とは、見た目がブルーベリーに似ている。だが味は美味しいと言い難く、苦いので誰も好きこのんで食べない。

 それと硬いため、飲み込むしかないのだが実が小さいのでなんとか飲み込める。


 リューセイ達は、休んだあとその場を離れた。そして現在、この洞窟の前にいる。


 「いよいよだな!」

 リューセイはワクワクしながら、暗くて見えない洞窟の内部をみつめていた。

 「ああ。この洞窟の中に、」

 クライスは、はやく宝玉がみたくてウズウズしていた。

 「そうだな。この奥に俺たちの求める物がある!」

 アベルディオもまた、はやく中に入りたくて気持ちが落ち着かない。だが顔には出さなかった。

 「ねぇ、はやく入りましょうよ」

 ルルカはそう言いみんなをせかす。

 「待ってください。本当にルルカさんも、洞窟にいくのですか?」

 そう言いイシスは心配そうにルルカをみる。

 「大丈夫! 問題、ありませ〜ん」

 ルルカがそう言うもイシスは、本当に大丈夫なのかとよけい不安になった。

 「ねぇねぇ! ルルカが言うようにさぁ。はやく宝玉をみてこよ〜」

 そう言いユリエスは、ウキウキしながら洞窟の中へと勝手に向かう。

 「待てユリエス! まだ話が、」

 アベルディオに言われユリエスは、立ちどまると振り返りチラッとみる。

 だがニコッと笑顔をみせるとユリエスは、ふたたび歩きだし洞窟の中に入っていった。

 「どうする?」

 「アベルディオ。どうするって、追うしかないだろう!」

 リューセイはユリエスのあとを追いかける。

 「確かに追わないと。中でユリエスが、何をしでかすか分かったもんじゃない!」

 そう言いクライスもユリエスのあとを追った。

 「そうですね。急ぎませんと、ユリエスのことですから、」

 ユリエスがなにかやらかさないかと、ヒヤヒヤしながらイシスは洞窟に入っていく。

 そしてその後ルルカとアベルディオは、『しかたないなぁ』と思いながらみんなのあとを追いかけた。
 あれからリューセイ達五人は、ユリエスを追いかけ洞窟内部へと入った。

 だが洞窟に入るや否やルルカは、謎の影が入口に仕掛けた魔法陣により、森の外の草原へと転移させられる。

 それを見たリューセイ達四人は、何が起きたのかわからなかった。

 四人は心配するも、もしかしたら洞窟のどこかにいるかもしれないと思い先に進むことにする。

 この時イシスは、ルルカを思い「どうか無事でいてください」と願っていた。



 一方ルルカはと言うと、草原に転移させられ困惑している。

 「えっと……。いったい何が、」

 そして何がなんだか分からず、しばらくその場にたたずみボーっと森を眺めていたのだった。



 そのころリューセイ達四人は、ユリエスにやっとの思いで追いつき先へとすすむ。

 その間ユリエスは、四人にこっぴどく叱られる。

 だが「ごめ〜ん」と謝るも、相変わらず反省しているのか分からない表情で、ヘラヘラと笑いながらだ。

 アベルディオは、そんなユリエスに対し怒るもさほど効き目がなかった。それなので、これ以上言っても疲れるし無駄だと思い諦める。

 その後リューセイ達は、洞窟内を迷いながらも、宝箱を見つけアイテムなどを手に入れていった。

 だがその中には、宝箱を真似た魔物やワナなどが含まれている。

 そうこうしながらリューセイ達は、洞窟の最深部近くまできた。

 「今度こそ間違いないんだよな?」

 クライスは、疲れた表情でそう言った。

 「どうだろうな……」

 リューセイもまた、すごく疲れているらしくフラフラである。

 「そうだな。いい加減、ここがそうであってほしいものだが……」

 今にも倒れそうにヨタヨタしながらアベルディオは、リューセイとクライスに追い着きそう言った。

 そのあとからイシスとユリエスが追いかけてくる。

 「本当ですね。それに、もしかしたらここにルルカさんが」

 なぜかイシスは、疲れた様子もなくルルカの心配をしている。

 「イシス。いつもより元気みたいだけど大丈夫なの?」

 そう言うとユリエスは、イシスの顔をのぞいた。

 「ええ、だいじょ……」

 そう言いかけイシスは、バタンと倒れる。


 そうただ単に、実際には疲れていたがムリをしていたため表情に出していなかっただけだ。


 それを見たアベルディオは、急ぎ魔法で回復する。

 イシスの治療が終わるとアベルディオは、みんなと自分の回復をした。

 その後アベルディオとユリエスは、メマの実を食べ魔力を回復する。


 ちなみにメマの実で回復できるのは一日五粒だ。それ以上食べても回復することができない。

 だがそれだけならまだ良い方で、下手をすればお腹を壊すからである。


 そして五人は、洞窟のさらに奥へと向かった。



 場所は移り、ここは願望の宝玉がある洞窟の最深部。

 謎の影は、五人のここまでの勇敢なる様を見て喜んでいた。

 「いいですねぇ。まさか、ここまでの力があるとは思いませんでした。そうですね。では、彼らを歓迎するための準備をしなければ」

 すると、何やら聞きなれない言葉で詠唱を唱え始める。

 「さぁ、どうなるのかしらねぇ」

 そしてその後、謎の影は含み笑いをしその場から姿を消した。
 ここは洞窟の最深部付近。

 リューセイ達は、扉の前までくると開けて中に入った。

 辺りは他の場所よりも、あきらかに明るい。それに、さほどジメジメした感じがなく広い空間だ。

 「ふぅ。やっとだな」

 そう言いクライスは辺りを見まわす。

 「ああ。なんとかここまでこれた」

 リューセイはそう言うと、心の中で『よし!』と気合を入れる。

 「そうだな。ここまでくるのに、思っていた以上に苦戦した。--ん? あれはもしや!?」

 周囲を見渡しアベルディオは、奥の方に何かあるのが見えたためその場所へ向かい歩き出した。


 そう石の台座の上には、五つの宝箱が並べられていたのだ。


 他の四人もその事に気づき石の台座の方へと駆けよる。

 「うわぁ、宝箱だ! それに、今まで見たのよりも小さくてキレイだなぁ」

 そう言いユリエスは、宝箱を触ろうとした。

 「まだ開けるのは待ってください。どうせなら、みんなで一斉に開けませんか? それに、私は一人で開ける勇気がないので」

 そう言われユリエスは宝箱から離れる。

 「ん〜そうだね。確かにイシスの言う通り、みんなで開けた方がいいかも」

 「そうだな。そうしよう」

 ユリエスとリューセイがそう言うと三人は頷いた。

 そして改めて五人は、各自どの宝箱を開けるか悩みその場所の前までくる。

 「僕は、この緑のにする」

 「それなら俺は、この黒い宝箱にするか」

 「ユリエスとクライスが決まったとなると。ん〜、この三つの中から選ぶわけか。そうなると、俺はこの白い方にしておく」

 そう言いアベルディオは、白い宝箱の前に立った。

 「じゃ、俺はこれにする」

 リューセイは青い宝箱の方へと向かう。

 「そうなると私は、最後に残った紫の宝箱ですね。そういえばよく見ると、みんなの装備と宝箱の色が同じです」

 「確かにそうだな」

 そう言われリューセイは、宝箱をみながら考え始める。

 (ん〜もしかして、この装備と何か関係があるのか?)

 だがそう思うも、何も考え付かずそれ以上は悩まないことにした。

 「確かにな。だが何か意味があるなら、なおさら開けた方がいいだろう!」

 「ああ。クライスの言う通りだ」

 アベルディオがそう言うと四人は、ウンと首を縦にふる。

 その後五人は、アベルディオの掛け声のもと、ワクワクしながら一斉に宝箱を開けた。

 それと同時に五人の宝箱が、各々の色で光りを放つ。

 するとその光は、周囲を覆い尽くし__

 「「「「「うわぁぁー!?」」」」」

 __そしてその光は、五人をのみ込んでいった。



 一方謎の影は、五人が光にのみ込まれたことを確認すると姿を現す。

 「クスクス……。いいですよ! いいですねぇ。まさかこんなにもあっさり、ワナにかかってくれるとは思いませんでしたが」

 歓喜のあまり高笑いをした。その笑い声は洞窟内に響き渡る。

 (ですが彼らは、自分の欲望に囚われ自らを破滅へと--そして、あの装備と共に消え去るのです!
 そうこれで、英雄など生まれなくなるのですよ。では、彼らが生き絶えるのを待つとしましょう。
 --多分あり得ないとは思いますが、もしもという事も考えておきませんとね。
 それに、確認もせずに王都に帰りでもしたらあのお方に叱られてしまいます。いえ恐らく、それだけではすまないと思いますが、)

 そう思った瞬間、身をブルっと震わせた。

 「ふぅ……。嫌な想像をしてしまいました。--まぁ、余計なことを考えずに様子を伺うことにしましょうか」

 謎の影は透視をするために、水晶を持ちながら聞きなれない言葉で詠唱する。すると、宙に五つの空間が開きリューセイ達五人を映しだす。

 そして謎の影はその後、不敵な笑みを浮かべるのだった。
 ここは、願望の宝玉が創りし世界。辺りには、暖かな光が差している。

 クライスは気を失い、その光に包まれ宙を漂っていた。

 すると、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。


 『--あなたのその望みを叶えましょう。ですがそれが叶った暁には、その代わりの物をもらい受けます--』


 そう告げるとその謎の声は、クライスをどこかに転移させた。__



 __ここは、願望の宝玉が創り出したクライスの思い描く世界。

 クライスは目を覚ますと辺りを見回した。

 (ん? なんでこんなとこにいる! 確かアイツらとこの国をでたはず。それなのに、どうなってるんだ)

 そう思い首を傾げる。


 そう現在クライスが立っている場所とは、ダインヘルム国にあるムウル闘技場の入場門付近だ。


 クライスは、なぜここにいるのか不思議に思いながら自分の身なりをみる。

 「……」

 (おい!? なんで、国で使っていた装備に変わってるんだ!
 それに、ここは闘技場。いや待て。その前に、確か洞窟にいたはず。ん〜夢でもみてるのか?)

 そう思い自分の左手の甲を思いっきりつねってみた。

 「イデェェーー!!」

 余りの痛さに大声で叫んだ。

 (夢じゃない。じゃ、今までリュー達と旅をしたこと自体が夢だったのか? だが、そうだとしても変だ)

 そうこう考えるも納得がいかず、余計に分からなくなりイライラし始める。

 「あー分からねぇぇ〜!!!」

 そして頭をかきむしり大声で叫んだ。

 そう思い悩んでいるとクライスの背後から、コツコツと通路を歩く足音が聞こえてくる。

 「クライス。何を騒いでいる。まさか怖気付いたのではないだろうな?」

 そう声をかけられクライスは振り返った。するとそこには、クライスの父親のナファスが立っている。

 「父上!? これはどういう事なんですか? それに、なんで俺は闘技場に」

 「うむ。これはどうしたものか。もしや余りにもあり得ない快挙を成し遂げ、ここまで勝ち上がってきたために頭が混乱しておるのか?」

 そう言われるもクライスは、ナファスが言っている事が理解できずにいる。

 「快挙? 勝ち上がる? ま、まさか!? これから行われようとしているのって。決勝って事はないですよね?」

 一瞬そう考えたあと、まさかと思いナファスに問いかけた。

 「その通りだ。だがクライス、どうしたのだ? 今日のおまえは、すこしおかしいぞ」

 「決勝戦、誰と誰の。って、まさか俺なんですか?」

 まさかと思いクライスは、自分を指差し聞きかえす。

 「ああ、そうだ」

 「それじゃ、この先にリューセイがいるんですね」

 リューセイと正式に剣を交えることが出来ると思い、クライスは喜び笑みを浮かべる。

 「何を言っている! やはり、今日のおまえは変だ。あの者たちは既に、」

 ナファスは、険しい顔になり何があったのかを話し始めた。

 「ちょ、待ってください!? それって。じゃ俺は、みんなを見捨てて国に戻ったと言うんですか!」

 「いや、おまえは彼らを見捨てたわけではない」

 「ですが! 今の話を聞く限り。アイツらが魔物に襲われているというのに助けることもできず。自分だけが生き残り国に戻ってきてしまった」

 クライスは頭を抱え、項垂れるように座り込んだ。

 「おまえが悪いわけではない。それに、今更それを悔いても仕方がないだろう。さぁ、そろそろ決勝戦が始まる。クライス期待しているからな!」

 そう言いナファスは客席へと向かった。

 (どうなってる? 俺が生き残り、リュー達がやられたっていうのか? だが、もしそうだとしてもだ。
 あの三人はともかく。俺よりも強いリューが、そう簡単にくたばったなんて信じられん。なんか変だ。どうもしっくりこない。
 それに今から決勝って、いきなりすぎねぇか? それに記憶がないっていうのもなぁ)

 そう思いながらクライスは、この先にある試合会場に視線を向ける。そして、試合会場へと歩き出した。

 すると観客席から「わぁー」と歓声が湧き、クライスは周囲を見渡してみる。

 (んー何か違う。確かに、強くなって称号を得たいと思っていた。
 だが、こんな形じゃなく。あくまで、リューセイに勝つという前提でだ。だが、今ここには)


 『欲するままに。さぁ、それを手にするのです!』


 謎の声はそう言い誘導するも、その声はクライスには聞こえていない。

 だがクライスの体が、自分の意思とは関係なく動き出した。

 「これは!?」

 なんで体が勝手に動くのかと不思議に思いながら、必死で自分を制御しようとする。

 (クッ、やはりな)

 そう思うも既に対戦相手の前まで来ていた。

 対戦相手はクライスをみるなり眉をひそめる。

 「クライス。私を待たせるとは、どういう料簡だ! それとも、怖気付いたのか?」

 そう言われクライスは、対戦相手の方を向いたと同時に驚いた。そうそこには、桃色のグラデーションで銀髪の美しい女剣士が立っていたからである。

 「女? ていうか、おまえは誰だ! なぜ名前を知っている?」

 「はあ? 何わけの分からないことを。確かに会うのは初めてだが、今日の試合はみせてもらった。おまえは確かに強い。だが私が勝つ!」

 そう言い女剣士は剣を抜き刃先をクライスに向ける。

 だがクライスは眉をピクッとさせるも動じなかった。

 「うむ、なるほどな。もしこれが夢だとしても。この好機を逃すわけにはいかんだろう」

 「フッ、やっと、やる気になってくれたようね!」

 女剣士はそう言い剣を持ち直し身構える。そして開始の合図を待った。

 「いや、君と戦うつもりはない」

 「戦うつもりがない? 何を言っているの」

 そう問いかけられクライスは、女剣士の方へと歩みよる。そして目を輝かせながら、女剣士の手を握りあり得ない言葉を発した。

 「言葉の通りだ。どんな状況であっても、女を傷付けるつもりはない。それに、美しい君には華やかなドレスの方が似合うはずだ」

 そう言うとクライスは女剣士の手の甲にキスをする。

 そう昔から美しくて気の強い女性を好きになる傾向があり、自分の目の前の女性もそうだったからだ。

 女剣士は、ぼうぜんとしその場にたたずむ。だがすぐに我にかえり、クライスを払うと後退りする。

 クライスは女剣士の方へ近づこうとした。

 「ちょ、ちょっと待て。おまえ、ふざけているのか?」

 「いや俺は、本気だ!」

 クライスは女剣士の手を取ろうとする。だが女剣士は、ビクッとし後ろの方に逃げた。


 するとこの世界の空間のどこかで、「ピキッ!」と音がして徐々に亀裂が入り始める。


 その後クライスは、女剣士を口説き落とそうとひたすら追いかけた。片や女剣士は、半泣き状態で逃げる。


 『これはどういうこと? あの者の願望は、優勝し称号を得ることのはず。ですが、亀裂が入ってしまいました。考えている余裕はなさそうですね』

 謎の声は、この空間を維持することが困難になり術を解き姿を消した。


 その後女剣士が姿を消すと、この世界は崩壊し始める。

 「うわぁぁぁ〜!? なんなんだぁ〜!」

 そしてクライスは、この場からもとの場所へと飛ばされたのだった。
 そのころアベルディオはというと__

 __ここは願望の宝玉が創ったアベルディオが思い描く世界。

 アベルディオは、なぜか畑の真ん中に立っていた。


 そうここはダインヘルム国の首都から南西部に位置する名もなき村。そしてこの村には、ハルジオン邸の別荘があるのだ。


 (ここは以前、訪れたことがある。確かシェリナの家の畑だったはず。
 でもどうして、こんなとこに立っているんだ? 俺はリューセイ達と洞窟にいたはずだが)

 そう考えながら、何気なく自分が着ている服をみる。

 (ん〜、どうなっている。なぜ農作業用の服に変わっているんだ?)

 必死で現状を理解しようと思考を巡らせる。そうこう考えていると、どこからか聞きなれた女性の声がしてきた。

 「アベルディオ! 何、ボーっとつったってるの。早く終わらせないと、父さんに怒られるわよ。それに日が暮れちゃうし」

 そう言われアベルディオは声のする方を向くと驚きよろける。

 「シェリナ!?」

 (どういう事だ!? なぜここにシェリナが)

 涙を浮かべアベルディオは、信じられないと思いながらシェリナの方へ歩みよる。

 「シェリナ。生きていたのか? だけど、確か君は三年前に流行り病で倒れ、」

 「はあ? 何わけの分からないことを言ってんの。ほら、さっさと終わらせるわよ!」

 シェリナにそう急かされアベルディオは、ひとまず様子をみることにし涙を拭った。

 そして、シェリナとともに畑を耕し始める。

 (死んだはずのシェリナが、なぜ目の前にいる。それも生前のままの姿で。
 それにしても、相変わらず綺麗なブロンドの長い髪だな。でも、あの気の強い所がなければもっといいんだが。
 ん〜だが、どうなっている。これは夢なのか? もしそうだとしても、あまりにリアルすぎだ)

 そうこう作業をしながら考えていると、シェリナがニコニコしながらアベルディオに話しかけた。

 「でもさぁ。あの時は驚いたわよ。まさかアベルディオが、自分の地位を捨て屋敷を飛び出しアタシの前に現れた時には」

 「俺が? なんで?」

 「そう、だけど。なんでって、まさかあんだけの事をしておいて覚えてないっていうの。それに、アタシにプロポーズしてくれたことも?」

 そう言いアベルディオをジト目でみる。

 (俺が告白を? って、ちょっと待て。確かにシェリナは俺の初恋の相手で好きだった。でもそれは、彼女が生きていた時の話だ。それに今は、)

 そう思い眉をひそめ考えこむ。

 (落ち着け! もしかして、これは願望の宝玉が創り出した世界。だとしたら。いや待て。もしそうなら、このままでもいいんじゃないのか?)

 そうアベルディオが思った瞬間__


 __『さぁ、ここはあなたが望む世界。そう、心が欲するままに--』


 そう謎の声が言うとアベルディオは、無意識にシェリナの前まで来ていた。

 「……!?」

 (なんで目の前にシェリナが!? どういう事だ? 勝手に体が動いたというのか)

 さっきまでシェリナから少し離れた場所にいたはずなのに、なんで近くにいるのかと不思議に思い首を傾げる。

 「アベルディオ? えっと、いきなりどうしたのよ」

 「あ、すまない。今日の俺は、どうもおかしいようだ」

 そう言うと頭を抱え俯き首を横に振った。

 (目の前にシェリナが。ってことは。だが、本当にこれでいいのか? このままで--いや違う! 確かに今でも後悔している。
 なぜ彼女が生きている時に、ちゃんと好きだと言えなかったのかと。
 それに、もっと早く病のことを知っていればなんとかなったかもしれないともな。でも今は、)

 そう思い微かに笑みを浮かべる。


 謎の声は、アベルディオの表情が微かに変わったことに気づき、

 『これはどういう事でしょうか? ですがまだ完全にではありません。それならば、』

 そう言うと謎の声は、シェリナにある行動をするように指示を促した。


 「ねぇ、アベルディオ。アタシ、今すごく幸せだよ」

 シェリナはそう言いアベルディオを誘うような視線をおくる。

 するとアベルディオは、ニコッと笑いその後シェリナの頬にキスをした。

 「ごめんシェリナ。やはり、今の君と一緒にいられない」

 そして、シェリナからすこし遠ざかる。


 するとこの世界のどこかで、「ピキッ」と音がし亀裂が入る。


 「それって、どういう事? まさか!?」

 そう言いシェリナは泣きそうな顔でアベルディオに近づこうとした。

 アベルディオは、そんなシェリナを抱きしめたいと思うがグッとこらえ後退りする。

 「本当にごめん。今でも、君とこのまま一緒にいたいと思っている。だけど、今はリューセイ達と叶えたい夢があるんだ」

 アベルディオは目を潤ませながら申し訳なさそうな表情でそう言った。

 「そっかぁ。やっと、やりたいことが見つかったんだね。うん、それならよかったぁ。昔のアベルディオは、ただ生きてるって感じだったもんね」

 そう言いながらシェリナはそばまでくるとアベルディオを覗きみる。

 「あーあ、残念。昔だったら、簡単に口説き落とせたのになぁ」

 そう言われアベルディオは不思議に思った。

 「シェリナ。君はまさか、」

 「クスクス。うん、今アベルディオが思っている通り。アタシは、」

 そう言うとシェリナの姿が徐々に透けていく。そしてシェリナは、今にも泣きそうな表情になっていた。

 「あ、そろそろお別れみたい。本当は、このまま一緒にいられるならって思ったけど。アベルディオの夢を壊したくないしね」

 「シェリナ。そっか。なら今、言わせてくれ。俺は君のことが、」

 アベルディオは一瞬言葉に詰まったが、「今でも好きだ」とシェリナに告げる。

 「ありがとう。その夢、絶対に叶えてね」

 するとシェリナの姿が消えこの世界の空間が崩れ始めた。


 『これはいったい。こんなはずでは。ですが、何が起こったというのでしょう』

 そう言い謎の声は姿を消す。


 アベルディオは泣き崩れそうになるもグッと堪える。

 (ああ、シェリナ。絶対にかなえてみせるよ。君のためにも、)

 そしてその後アベルディオは、腕を組み冷静な表情のままその場に立ちこの世界が完全に崩壊するまで待っていたのだった。
 そのころユリエスは__


 __ここは願望の宝玉が創りユリエスが願い思い描く世界。

 なぜかユリエスは屋敷の自分の部屋にいた。

 部屋の中はキレイに整えられ、机上に書類や本などが置かれている。


 ユリエスは、なんで自分の部屋にいるのか不思議に思い考えた。そして、歩きだし周囲をキョロキョロしながら室内を見渡してみる。

 (えっと。ここって僕の部屋だよね? だけど、なんでぬいぐるみが一つもないのかなぁ。まぁ、ない方がいいけどね)

 机のそばまでくると、置いてある書類が気になり手にした。

 (この書類って。確か姉さんが、忙しい父様の代わりにやってたはず。なんで僕の机の上に……。それに、どうしてこんなに山積みになってるんだろう?)

 そう思い悩んでいると、扉をノックし白髪の男性が部屋に入ってくる。そして、そばまでくるとユリエスに一礼をした。


 この男性はこの屋敷の執事でターバスという。


 「ユリエス様。そろそろ着替えをなされませ。ハルジオン公爵邸のパーティーに遅れてしまいます」

 そう言われユリエスはターバスの方をみる。

 「えっと、ターバス。パーティーって? それに、なんで僕の部屋がこんなに変わってるのかな」

 「何を言っておられるのです。今日はアベルディオ様の婚約披露パーティー。それと部屋が変わっていると言われましたが--」

 そう言いターバスは、なぜ部屋の雰囲気が変わっているのかを説明した。

 「えっ!? それって本当なの? でもまさか、あの姉さんが」

 ガクッと肩を落としユリエスは、そのまま項垂れ床に座り込んだ。

 (どういう事? 病気なんてした事がなかった姉さんが。だけど、なんでそんな大切な事を忘れてるんだ?)

 なんで姉のリリアが亡くなった事を覚えていないのかと疑問に思った。

 「どうされました。お気持ちはわかります。ですが。これからユリエス様がこの屋敷の次期当主として社交の場に、」

 「ああ。分かってるよ。だけど、」

 (だけど、急すぎる。でも、急じゃないんだよな。ただ僕が覚えてないだ、け……!?)

 そう思い納得しようとする。だが、よく考えてみると矛盾していることに気づく。

 (そういえば。そもそも、なんで家に戻って来てるのかな? さっきまで、洞窟にいたと思ったんだけど。
 それに、どう考えても変。これって現実じゃない気がする。
 ……確かに、僕が姉さんの代わりにって思った時もある。でも、それはあくまで姉さんが大変そうだったからだし。こんなの僕は望んでない!)

 そうユリエスが思うと、この世界の空間のどこかで微かに亀裂が入った。


 『これはどういう事!? 気づくのが早すぎます。いえ、その前にこれはあの者の望み--ですが、まだ手はあるはず』

 すると謎の声は、ターバスにある行動をするように指示する。


 「まさかとは思いますが、アベルディオ様に先を越されすねているのでは?」

 「す、すねてなんかない!」

 そう言われユリエスは、なぜか動揺してしまった。

 「はぁ、その様子だと図星ですね。ですが、ユリエス様も明日お見合いをされる予定になっております」

 「僕が見合い。誰と?」

 そう言われユリエスは聞きかえす。

 「リビア・セルティール様です。その様子では、やはり忘れておられたようですね。この前、御当主様がお話をされていたはずですが」

 「ちょっと待って!? 僕がリビアと?」

 驚きユリエスは、ターバスの腕を右手でつかんだ。そして、顔を赤らめながら左手で胸をおさえる。


 そうユリエスは、ずっとリビアの事が好きで遠くからみていたのだ。


 (リビアと見合いをする。この僕が……。でも、これは現実じゃない。それは分かっている。だけど、)

 そう思いユリエスは自問自答している。だがこれは……。


 『さぁ思い悩まず心の赴くままに、その望みを叶えるのです』


 「ユリエス様。何を悩んでおられるのですか。既に決められた事ですので」

 「うん、そのぐらい分かってる。だけどそれは、これが現実だった場合だよね」

 そう言いユリエスは、いつになく真剣な表情でターバスを睨みみる。

 「これは驚きました。ユリエス様がそのような表情をされるとは。ですが、現実ではないとはどういう事でしょう?」

 「そのままの意味だよ。確かにリビアの事が、今でも好きだ! だけど僕は一度、昔フラれている。それなのに、リビアが会ってくれるわけない!」


 __そうリビアとは、同級生で好きだった女性だ。

 黒髪の二箇所で纏めた三つ編みで可愛らしい雰囲気。そして、頭がよく成績は女子の中でも上位の方である。

 ユリエスは、いつも遠くからリビアをみていた。そんなある日の事リビアに告白をするも、既に婚約者がいて見事にフラれたのだ。__


 「……」

 そう言われターバスは、何も言えなくなり目が泳ぎ始める、それと同時にこの世界が崩れだす。

 (やっぱりそうだったんだ! もしかしたら、僕がリビアの事を思えばそうなるような気がした。だから、わざと考えたんだけどね。クスッ、)

 ユリエスはそう思っただけじゃなかった。もしかしたら、問い詰めれば夢から覚めると思いそう言ったのだ。


 __だが実際は、願望の宝玉が創り出した世界だったのだが。まぁそこは、結果オーライという事で__


 『まさか、わざとだと!? クウッ、してやられました。なんとズル賢い者なのでしょう。このままこの空間ごと始末を、』

 「ゴゴゴゴゴォー」と音がして、この世界がさらに崩れ始める。

 『ですが、今の状態を保つのは困難。仕方がありません。ここは、撤退した方がよさそうですね』

 そう言いその謎の声は消えた。


 「あっ! パーティーだけでも、出ておけばよかったかなぁ。美味しい物が食べられたかも。でも、まぁいっか」

 そしてその後ユリエスは、早く目が覚めないのかと思いながら待っていたのだった。
 イシスはそのころ__


 __ここはイシスが望む願望の宝玉により創り出された世界と言いたいが、なぜかイシスだけ現実のある場所に来ていた。

 イシスは、どこかの森の中にいる。その森はまるで幻想的な雰囲気を醸し出し、カラフルな花が咲き虫が飛んでいた。


 目を覚ますとイシスは、ここがどこなのかと思い辺りを見渡している。

 「ここは……。なぜか懐かしい気がします。昔、お母様と来た記憶が」

 そう思いキョロキョロしながら、恐る恐る森の奥へと歩き進んだ。

 (ここは、どこなのでしょう。ここに来たのは、幼いころだったはず。そのせいなのか、はっきり思い出せません)

 さらに奥へ奥へと向かった。すると、目の前にこぢんまりとした家が見え立ちどまる。

 (……。見覚えがあります。それなのに、やはり思い出せません)

 イシスは気になり、その家に行ってみる事にした。

 そして、玄関の前までくると扉をノックする。すると、「はーい。どちら様ぁ?」と返事が聞こえ扉が開いた。

 「えっ!? お母様、なぜこんな所にいるんですか?」

 「あらぁ、イシスじゃないの。よく、ここにいるって分かったわねぇ」

 ニコニコしながらイシスの母親は、ゆっくりな口調でそう答える。


 この銀色の髪で白く透きとおる肌のキレイな女性は、フェルシェ・レインロットといいイシスの母親だ。


 「いえ、なぜここにいるのか分からないのですが。ここは、いったいどこなんですか?」

 「そっかぁ。ここに連れて来た時は、まだ小さかったから覚えていないのねぇ。ここは、ハーフエルフが住む国の森の中よぉ」

 そう言われイシスは驚き仰け反る。

 「待ってください!? それってどういう事ですか? なぜお母様が、ハーフエルフの国に。確か、病で倒れたおばあ様の看病で里帰りされているはずでは」

 「ええ、その通りよ。ここがママの生まれ故郷ですもの」

 「へ? それって、もしかしてお母様は、」

 と言いかけるがイシスは、フェルシェをよく見るとすこしいつもと違う事に気づき一瞬話が途切れた。

 「そういえば、その耳はエルフのもの。という事は、お母様は……」

 そう聞かれフェルシェは、ニコリと笑みを浮かべる。

 「そう、ハーフエルフよぉ」

 「じゃ、それを今まで隠していたんですか?」

 「そうねぇ。人間の国にいる時は、魔法で姿を変えてたから。だけどパパは、ママがハーフエルフだって知ってるわよ」

 そう言われイシスは、戸惑い混乱し始めた。

 「ええと。それでは、この事を知っているのはお父様だけなのですか?」

 「いいえ、屋敷だとイシス以外は知ってたはずだけどぉ。確か、国では一部の人かしら?」

 「そうなのですね。それを聞き納得しました。私の魔力が、アベルディオよりも……いえ、普通ではあり得ない数値だった理由が」

 そう言うと手のひらに視線を向ける。

 「あらぁ、そうなのねぇ。そうなるとイシスは、エルフの血が濃いのかもしれないわ」

 「そうですね。そうでした。おばあ様の容体は、どうなのですか? せっかくですので、お会いしたいのですが」

 そう言い中をのぞこうとした。


 『クスッ。いい感じですねぇ。ですが、なぜ現実? 何か特別な力が働いたような。それにハーフエルフとは、』

 すこし間をおくとまた話し始める。

 『これは、慎重に魔法を使ったほうが良さそうですね。-- さぁ、あなたの望みはあとすこしでかないます。それを手に入れるのですよ』


 だがこの時、既にフェルシェは気づいていた。

 (これは、なんらかの力を感じます。イシスは気づいていないみたい。そうなると、この力によりここに飛ばされて来たみたいね。
 それはそれで嬉しいけど。んー、でもこのままじゃダメな気がするわ)

 そう思いフェルシェは、外に出ると扉を閉める。

 「おばあ様は大丈夫よ。だいぶ良くなってきてるから。それよりもその装備って、まるで魔道士ねぇ」

 「あっ、えっとこれは、」

 そう答えるとここまでの経緯を話した。

 「なるほどねぇ。クスッ、イシスが家出かぁ。それもお友達と」

 「怒らないのですか?」

 フェルシェの反応が意外だったためそう問いかける。

 「怒るわけないでしょ。男の子なんだから、そのぐらいじゃないとねぇ。そうなるとイシス。お友達のところに戻らなくて大丈夫なのぉ?」

 「あっ! そうでした。ですが、どうやってもといた洞窟に戻ればいいか分かりません」

 イシスはどうしたらいいか分からず悩み出した。

 「そうなのねぇ。それじゃ、ママが手伝ってあげるわ」

 そう言いフェルシェは、頭上に両手を掲げる。そして、聞こえるか聞こえないくらいの小声で詠唱し始めた。

 (お母様は、何を考えているのでしょう? 先程の行動といい、今の発言にしてもですが。まるで、私以外の誰かを意識しているように思います。
 私がこの場所に飛ばされて来たことと、何か関係があるのでしょうか)

 イシスはフェルシェのその行動に困惑する。


 『まさか!? あの女。気づいたというのですか? これはまずいですね。この世界を撤去したいのですが。ここは現実世界、』

 フェルシェの行動に焦りをみせ謎の声は、どう対処したらいいのかと思考を巡らせた。

 『止むを得ません。こうなったらあの者をここに残し、撤退したほうが良さそうですね。それだけでも、五人がそろう事はなくなります』

 そう言い謎の声は、その場から撤退した。それと同時にフェルシェは、掲げていた両手をイシスに向ける。

 すると、フェルシェの目の前に魔法陣が現れた。

 「イシス、お別れね。もっとゆっくり話したかったわ。だけどあなたは、ここにいてはいけないのです」

 そして、イシス目掛け魔法をはなつ。すると、その魔法のまばゆい光がイシスを覆いつつむ。

 「これは、もしかして転移の魔法!」

 フェルシェがしようとしている事が分かり納得する。

 「イシス。今度は違う方法で、お友達とここにくるのよ」

 「はい! 分かりました。お母様もお元気で、」

 そう言い互いに、いっぱいの涙を目に浮かべ別れを惜しむ。だが、生きていればまた会えると思い手を振りニコッと笑った。

 その後フェルシェは、イシスから聞いた洞窟の場所を言うとパチンと指を鳴らす。と同時に、イシスの姿がその場からパッと消えた。

 フェルシェはイシスがその場から消えたあと、謎の声の存在がなくなった事を確認すると疲れた表情へと変わる。

 「ああは言ったけど。あの子、大丈夫かしら? 誰に似たんだか。男の子なのに、おっとりしすぎてるのよねぇ」


 __誰に似てるって。どう見ても、あの性格はフェルシェだと思いますよ__


 「まぁでも。お友達と一緒なら大丈夫かなぁ」

 そしてその後フェルシェは、イシスの事を心配しながら家の中へと入っていった。