リューセイ達がゴブリンらと戦っている最中。願望の宝玉があるとされる洞窟の最深部では、その様子を透視しながら監視している者がいた。

 だが現状では黒い霧で姿を隠しているため、表情やしぐさ以外何者なのか確認できない。

 「クスッ。この宝玉を求める愚かな者が、やっと現れたようですね」

 すこし考えたあと再び語り始める。

 「ですが。--この程度の魔物に苦戦しているようでは、この者たちも本命ではないという事でしょうか? ……まぁいいですわ。それならそれで、」

 そう言い不敵な笑みを浮かべた。

 (--フフッ。もし仮に、たどり着いたとしても。彼らにとって、ここには絶望しかないのですから……)

 そう思いながら再びリューセイ達の様子をみる。

 「さてその前に、この場をどう切り抜けるのでしょう。フフフフッ……さぁ、どうなるか楽しみですわ」



 場所は移り、ここは森の中。

 リューセイとクライスは、襲いくるゴブリン達の攻撃をまともに受けながらも必死で倒していた。

 そんな中リューセイは、ふとゴブリンの数が増えているような気がし疑問におもう。

 (さっきよりも、数が増えてる気がする。もし仮にそうだとして、いったいどこから湧いてくるんだ?)

 そう思い攻撃しながら、ゴブリンが現れる方向をよく観察してみる。

 (ん? これって! ほとんどのゴブリンが同じ場所から現れている。って事は--なるほどそういう事か。
 もしかしたら、この先にボスがいるかもしれない。ん〜だけどちょっと待て。もしそうだとしたら、どうやって現れているんだ?)

 そう納得するも、どうやって現れているのか分からず悩んでしまった。



 一方クライスは、どんなに倒してもゴブリンがあとからあとから湧いてくるためイラッとしている。

 (クソッ、、……。なんなんだこの数は? 吹きとばした数より、間違いなく増えている。だが、そもそもなんでだ?)

 そう思うが、それ以上かんがえる能力……あーいや、そんな余裕もなくただひたすらゴブリンを倒していった。



 そのころイシスは、大きな木の陰に隠れながらブルブルと震えていた。

 (まさか、こんなにゴブリンが現れるなんて。--ですがいつまでも、ここで身を隠しているわけにもいきませんし)

 そう思いリューセイとクライスのほうに視線を向ける。

 「ヒッ!?」

 だがゴブリンの大群をみるなり、怖くなり再び木の陰に身を潜めた。

 (やはり私ではムリです。あんな恐ろしい生き物を相手にするなど)

 身を震わせそう思っていると、そこにルルカが現れイシスをのぞきみる。

 「ねぇ、みんなが必死に戦ってるのにさぁ。あなたはここで何をしているの? 見た目はそんなだけど、一応男なのよね?」

 そう言われイシスは、ムッとした表情でルルカをみた。

 「な、なんなんですか!? いきなり現れたと思ったら。見ず知らずのあなたに、そこまで言われる筋合いはありません!」

 「ふぅ〜ん。確かにそうだね。じゃぁさぁ、言われたくないなら戦ったらどうかなぁ」

 そう言いルルカはジト目でイシスをみる。

 「そ、そう言われましても、」

 イシスはルルカに言われるも、どうしたらいいかと悩みモジモジし始めた。

 それを見たルルカは、イライラし始める。そして、『プチッ』と何かが切れた音がした。

 「あーいい加減イライラする。男ならもっとシャキッとしなさいよ!」

 そう言いイシスの顔に、パシッ! とビンタを食らわす。

 「ちょ、いきなり何を!?」

 イシスはビンタされ一瞬、泣きそうになる。だが、怒りのほうが勝りルルカの手を強く握った。

 「へぇ、意外と力があるじゃない。てかさぁ、私に食ってかかる気力がそんだけあるなら。仲間を助けたらどうなの?」

 そう言いルルカは、リューセイとクライスのほうを指さす。

 イシスはルルカにそう言われ、ハッとする。

 (確かにこの人のいう通りです。私がここでゴブリンを恐れ隠れているあいだも。リューセイ達はキズを負いながら必死に戦っている。なのに私は、)

 「ありがとうございます。確かにあなたのいう通り。私は恐ろしさのあまり、あやうく仲間を見捨てるところでした」

 イシスはそう言うと軽く頭をさげたと同時に、キリッとした表情へと一変させた。

 「ふぅ〜ん。やっとやる気になったみたいだね。それに、今のほうがまだ男らしくみえるよ」

 そう言いルルカは、ニカッと満面の笑みを浮かべる。

 「はぁ、そうでしょうか……」

 イシスはそう言うと顔を赤らめた。そう男らしくみえると言われた事と、ルルカの笑顔が余りにも愛らしく思えたからである。

 (えっと。この胸の高鳴りは……。まさか、この私が彼女を?)

 自分がいだいている今の気持ちに対しイシスは、信じられないと思いボーっとルルカを見つめた。

 それを見たルルカは、再びジト目でイシスをみる。

 「なんで、急にほうけてるのよ!」

 「あっ! そうでした」

 ルルカに急かされイシスは、リューセイ達のほうを向きつえを持ち身構えた。

 「じゃせっかくだから、私も加勢するわね!」

 「いえ、木の陰に隠れていてください。私があなたを守ります!」

 イシスがそう言うとルルカは、一瞬「……」となる。その後、われに返り苦笑した。

 「ハハハ、あ、ありがとう。そうねぇ、あなたの実力もみたいし。でも、ムリと判断したら私も加勢するからね」

 そう言うとルルカは木の陰に隠れる。

 「ええ、その時はお願いします。ですが、あなたの前で、」

 (いえ、これは今は言わないでおきます。まだこの気持ちが本物かも分かりませんので……)

 そう思いイシスは、いだいているこの気持ちをグッとこらえ胸の奥にしまった。



 片やアベルディオはその光景を見ていた。

 (あの人は、確か俺たちのあとをつけてきていたルルカ。ん〜あの様子だと、イシスの事が見ていられず出てきたみたいだな。
 ってかイシス。おまえ……。はぁ、女の趣味をとやかく言うつもりはないが。よく相手を選んだほうがいいと思うぞ)

 そう思い頭を抱えると「ハァ〜」と息を漏らす。

 (まぁいいか。状況がどうあれ、イシスがやる気になったのならな)

 アベルディオはニヤリと笑い、再びリューセイ達のほうをみる。

 そしてその後アベルディオは、何が起きてもいいように臨戦態勢をとるのだった。