この世界はタイタンリズム。

 そしてこの物語の始まりの地となるダインヘルム国は、この世界の中央から東南東に位置する、ベルゴーグ大陸にある。

 ここダインヘルム国は、辺境の土地にも関わらず裕福な暮らしをしている者がおおい。

 そう貴族や国の者たちは、何不自由なく暮らしていた。そして皆、心が澄んでおり人を疑うことを知らない者ばかりだ。

 そしてこの大陸の王都ロゼレイヴィアから離れているせいか、あまり干渉されておらず。貴族たちは、ほぼ退屈な日々を過ごしていた。__



 ここは、ランベルン伯爵邸にある書庫。五人の貴族の御曹司が退屈そうに本をあさっていた。

 「なぁ、アベル。なんか面白い本はみつかったか?」

 うす紫色のミディアムヘアの男性は、床に寝そべり本を読みながらそう問いかける。


 この男性はクライス・ピオーネといい、ピオーネ伯爵家の次期当主だ。だがみての通りかなり、だらけている。


 「いや、思ったよりもないもんだな」

 そう言い本を次々に読んでいく。


 このうす紅色の長い髪の男性は、アベルディオ・ハルジオンという。

 ハルジオン公爵家の次男ではあるが、長男のアルディオが病気のためと、成績が優秀さゆえに次期当主と言われている。

 だが当の本人は、まったく興味がなく。こうやって友達と遊びほうけていた。


 __って。どこでお勉強をしているのでしょうか? まぁそれはさておき__


 「ホントだね。てかさぁ。何か面白いことがないかなぁ。こう、ワクワクするようなことがあると楽しいとおもうんだ」

 そう言い本を持ちながら、おどるように四人の目の前を歩いている。


 この黄色いショートヘアの男性は、ユリエス・アルキオ。

 アルキオ伯爵家の長男ではあるが自分が生まれる前に、年の離れた姉のリリアがあとを継ぐことになっているためか気楽な日々を過ごしている。


 「そうは言っても。そうそう、うまい話があるとも思えませんしねぇ」

 桃色の髪の男性は、長い前髪をかきあげ四人を順にみた。


 この男性はイシス・レインロット。レインロット男爵家の長男で、位はこの中で最も低い。

 だがそんな自分を哀れとは思わずのんきに過ごしている。__まぁただ単にマイペースなだけなのだが。__


 「まったくだ。学園を卒業してから何もやることがなくなったしな。ん? これは……」

 茶髪でショートヘアの男性は、本棚をみていると面白そうなタイトルの本をみつけた。


 この男性は、リューセイ・ランベルン。そうここはリューセイが住んでいる屋敷である。

 リューセイはこの五人の中で最も剣術に優れ、この国の大会のジュニアクラスではあるが優勝したこともあるほどだ。

 __この五人の中では、恐らく一番まともなほうだろう。__


 そう言うとリューセイは、その本をとり表紙をみた。

 その本のタイトルとは……。

 【勇敢なる勇者と生贄にされし王女】


 そのタイトルを言うと四人は、興味を持ち一斉にリューセイを囲むように集まる。

 「リューセイ。その本は勇者を題材にした物語ですよね」

 そう言いイシスはリューセイの本を覗き込む。

 「ほう。それは面白そうだな。どんな内容なんだ?」

 リューセイの肩に手を乗せるとクライスはその本を見おろす。

 「ねぇ、ねぇ。僕にもみせてよ。やっぱり主人公ってかっこいいんだろうなぁ」

 ユリエスは本をみることができず、ピョンピョンと飛び跳ねながら覗こうとしている。

 「勇者って。そうなるとその本は冒険ものか。冒険かぁ。そういえば俺たちって、この国を出たことがなかったよな」

 アベルディオは、この国以外の領地はどうなっているのかと疑問に思った。

 「確かにそうだな。だけど今の俺たちの身分じゃ、外の世界へ行くのはムリだ」

 「リュー。確かにそうだな。ん、そうか! いい考えがある」

 そう言うとクライスは、みんなにその考えを説明する。

 「なるほど。そういう事か。確かに親に言わずに置き手紙だけ残し家を出れば。この国から抜け出せる」

 「でも、リュー。おまえの家、大丈夫なのか? 確かランベルン伯爵家は、おまえだけだったよな」

 「クライス。そんな事を気にしてたら、何もできない」

 この時のリューセイは、何もみえてなかった。ただ、今の退屈な暮らしから、早く抜け出したかっただけである。


 __要は、ただ単に親不孝な子供なだけであった。__


 「ねぇ。いつそれを実行するの?」

 ユリエスはワクワクしながらクライスに抱きついた。

 「どうする? 俺の一存じゃ決められないしな」

 「クライス。じゃ、こうしないか」

 アベルディオがその方法を告げると四人はうなずく。

 「うん、三日後の深夜ってことで」

 リューセイがそう言い四人は手を振ると屋敷をあとにする。



 __そして運命の日。



 あれから三日後の夜遅く。辺りは既に暗く、月明かりが微かに照らす程度だ。

 リューセイ達は旅支度を整えると、ダインヘルムの国境付近にある小さな石塔に集合していた。

 「みんな集合したようだな」

 クライスは四人がここにいるか確認する。

 「いよいよかぁ」

 アベルディオは、外の世界へ出てどんな物がみられるのかウキウキしていた。

 「ですが。私は少し不安になってきました。大丈夫でしょうか?」

 国境のそばまで来てイシスは、急に不安に襲われる。

 「心配性だなぁ。いつものイシスらしくないよ。それに、この五人なら大丈夫だって」

 「確かにユリエスの言う通り。俺たちなら大丈夫。今までだって上手くやれたし」

 リューセイがそう言うと四人は一斉に頷いた。

 そしてリューセイ達は、この日から身分と国を捨て冒険者としての苦難の道を歩むのだった。