詩は落ち着きをはらった様子で話す。

「現在、二人は恋人関係にありません。ですが従兄妹ですから、大きな問題もなく、また、宮旭日家としては二人が恋仲になる、結婚するは受け入れられることです」

「はい」

「そして……あんまりネタバレをするのはよくないとわかっていますが、琴理様には把握しておいていただきたいので申し上げます。主彦は涙子に矢印が向いているのですが、涙子の方はさっぱりで……」

詩が、頭痛でも抱えたように指を頭にやる。

「主彦さんの片想い……ということですか?」

「簡単に申し上げれば、そうです。ですが涙子はほかに特定の者がいるということもないようで……」

それでは涙子のあの言葉は本当だったということだ。

琴理は声をひそめて続けた。

「……涙子さん、自分の恋愛に興味がない、と言っていましたが……」

「そのようなんです。涙子が恋愛感情を持たないなど、そういう性質なのかまではわかりませんが、学生時代も恋人がいたことはありません。二人とも幹部格の鳴上家の人間ですから、どうしても結婚することは望まれてしまうのですが……」

「……涙子さんも主彦さんも、悩みどころですね……」

昔ながらの風習が残っているのもわからないではないが、心護は次代の当主。

その伴侶となる自分は、どの程度それに染まっていいのだろうか。

新しい風を取り入れていく。おそらく、どの業界もそういう『時』は迎えるものだ。

きっかけのひとつがあって、大きく姿を変える。

そうして時代に適応していかないと、過去の遺物となってしまう。