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「何か、ご用でしょうか……」
琴理の心臓はドクドクはやって、言葉も噛みかけた。
着物姿で女子高の前に現れ注目を集めている淋里に、琴理は冷静さを保つよう心掛けながら尋ねた。
(ええと、ええと……心護様と涙子さんに言われていたのは、淋里様と二人きりにならないこと、誰か人がいるところへ――生徒はたくさんですが、宮旭日の方はいません。詩さんの車も……。どうしましょう、まさか学校へ来るなんて……)
琴理の背に冷や汗が浮かぶ。
怖い。純粋なその思いに心臓が絞められた。
一方の淋里は笑みを浮かべる。
「そう警戒しないで。ひとつ、琴理ちゃんに話があって来ただけなんだ」
琴理の警戒を解こうとしているのか、右手を振りながら話す淋里。
琴理はカバンの持ち手を両手でぎゅっと掴んだ。
「……なんでしょうか」
琴理の言葉ひとつで、心護と淋里の関係は揺らぐかもしれない。
淋里が琴理に何かしたら、心護は絶対に許さないだろう。
そうなったら、心護対淋里の構図が出来上がってしまう。
慎重に……と自分に言い聞かせる。
「琴理ちゃん、よくないモノがついてるよね? 僕ならそれ、祓うこと出来るよ」
「……え?」
(よくないものって……クマのことですよね? 祓う? 心護様も出来ないと仰っていたのに?)
淋里はにこっと微笑む。
「いきなり言われても困るよね。気が向いたらいつでも僕の離れへおいで。誰にも内緒で祓ってあげるから。代わりに、僕が言ったことは誰にも内緒だよ? 話したら、琴理ちゃんの大事な人に何かしちゃうかも。じゃね」
言うだけ言って、淋里は踵を返した。
立ち尽くした琴理を不思議そうな目で見る生徒がいる中、本当にさっさと帰ってしまった。
「――琴理様。お待たせしてしまい申し訳ありません――琴理様?」
迎えにやってきた詩が車から降りて、琴理に声をかけてきた。
琴理ははっとして顔をあげる。