心護の弱みにならないようにという教育も、琴理は受けてきた。
いざというときは、とも。
「琴理様……!」
涙子の声はまだ震えていたが、先ほどまでとは違う。
「心護様が心配してくださっているのなら、もっと気を付けるようにします。淋里様と二人きりにならないようにもします。……ほかに気を付けることはありますか?」
問われて、涙子は目元を拭った。
「はい。用事があって淋里様の離れにゆかれる際は、必ず心護様の離れの誰かを、供におつけください。おひとりではゆかれませぬように。母屋で逢われることがあって、その際そばに誰もいないときは口実を作ってすぐに人がいるところへ向かってください。淋里様がどのような嗜好をお持ちかはわかりませんが、念には念を入れて参りましょう」
「わかりました。何かと頼らせてもらいます」
「もちろんですっ。琴理様に頼りにしていただける私であるように、私は力を磨いて参りましたので!」
ぐっと、力こぶを作ってみせる涙子からは気迫が伝わってくる。
「ですが改めまして、琴理様に危険が及ぶ可能性がある判断をしてしまったこと、申し訳ございませんでした」
「わたしが残る提案をしたのはわたしです。あまり責めないでください。それに、まだ案内をしてもらえるのでしょう? 楽しみです」
「琴理様……はい! 今度は母屋までの道を歩きましょう。途中に何か所か四阿(あずまや)があります。来客の際に、お茶の席として使われることもあるのですよ」
「わあ、素敵ですね」
「はい。あ、もしお疲れになりましたら仰ってくださいね。休憩していきましょう」
「ええ、無理はしません」
涙子が普通を取り戻したことに安心して、琴理は歩き出した。
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母屋までの歩きのみの小路は何通りかあるらしく、涙子が案内してくれたのは桜沿いにつくられた小路だった。
「ご挨拶に行くときには見られなかった道です。桜が綺麗ですね……」
「はい。ほかの道は、心護様が案内してくださるそうです」
「心護様が? お忙しいのでは……」
「琴理様と二人きりになりたいのですよ」
内緒話をするように、こそっと言ってくる涙子。
「………」