人当たりがいいなあ、とか、人たらしだなあ、とは琴理も思った。

……心護の琴理への態度は周囲へとはまるで違うようなので、心護の人となりの判断はまだついていない。

「それでいて、恋人になった方などはあっさりと捨てていかれてしまうのです。……淋里様のお屋敷の使用人は入れ替えが激しくて、執事を務める私のもう一人の叔父も困っておりまして……」

(使用人の入れ替えが激しくて飽き性? って……)

「それは……あれですか? お手付きにしてしまうとか……」

琴理の問いかけに、涙子は苦い顔になる。

「……否定できません。そうしているという証拠や証言はありませんが、あまりに男も女も入ってはすぐに辞めてしまうので、怪しまれています。唯一注意出来るお立場のご当主様は、淋里様との関係がよろしくありません」

「そうなのですか……」

(『兄ちゃん』という呼び方から親しいのかと思いましたが、そうではないのですね……)

「ですので心護様も、淋里様が琴理様に近づかれることには警戒しておられます。万が一にでも琴理様に魔の手が伸びてきたら――心護様は淋里様を抹殺されます。社会的にではありません。生命の意味です」

「そんな物騒な……」

冗談ですよね? という意味で琴理が言うと、涙子は真剣そのものの顔で言い切った。

「いいえ。断言出来ます。琴理様は心護様の、唯一の『理由』であられます。それなのに琴理様をおひとりにしてしまった私はなんて愚かなことを……! 万死です!」

「でも、助けに来てくれましたよ?」

震える声で自分を責める涙子に、琴理は柔らかく声をかける。

「………」

涙すら浮かんでいる涙子の顔が、琴理を見るために上向く。

日傘の後ろに太陽の光を従えた、琴理の表情は穏やかだった。

「ほかの誰でもない、涙子さんが助けに来てくれました。たぶんですけど、ああいった態度を主家の人間にとるのは勇気がいったと思います。仕えているのとは別の屋敷の人であっても、淋里様は宮旭日のお方です。それでも……涙子さんが走ってきてくれたとき、わたしは確かに安心しました。だから、ありがとう、涙子さん」

小さく首を傾げて笑みを見せる琴理に、涙子はすぐには答えず唇を噛んだ。

琴理は淋里に警戒心を持って接していた。

手を伸ばされても届かない距離を置くことに気を付けていたし、いざとなれば足首に備えている警棒も必要だと思っていた。

――現在当主候補筆頭の甥を脅迫するために、その許嫁に危害を加えることは考えられる手だからだ。