しかし次の瞬間には、にぱっとした笑みになる。
「心護がずーっと執着してる琴理ちゃんって、結構気になるかも」
「それですぐに飽きるのですよね?」
言い切った琴理の返事は淋里には意外だったようで、ぽけっとした顔になった。
それから軽く首を傾げる。
「それは……心護に溺愛されてる自信からくる言葉?」
「溺愛などされていませんが、淋里様のお話を聞いた上での感想です」
その返事にも、目をぱちぱちとさせる淋里。それからふっと噴き出した。
「あー、なるほど。これがそうか」
そう言って、くつくつと笑っている。
「琴理様――――!!」
淋里様は何がおかしいのだろう、と思っていた琴理の耳に、涙子の声が響いた。
振り返ると、涙子が土埃をあげる勢いで走ってくる。鬼の形相で。
「お待たせしてしまい申し訳ございません琴理様あぁあああ!」
「大丈夫ですよ、涙子さん」
ずざっと、琴理と淋里の間に割って入った。
そして琴理をかばうように両腕を広げる。
「失礼致します淋里様! 琴理様は大変お疲れでございますのでこれにて失礼致します!」
「あ、涙子ちゃ」
「それではまた後日!」
涙子が、主家の人間に向けてはいけない形相で言って、琴理の手首を掴んでその場から連れ出した。
「涙子さん?」
少し離れた場所、木の陰に入った辺りで涙子が足を停めて振り返った。その顔は蒼白だ。
「だだだ、大丈夫でしたか琴理様!?」
「ええ、淋里様とお話していただけですよ?」
「だけではないのです琴理様っ。その……先ほどは言葉を濁してしまいましたが、もう一つの離れの主は淋里様でいらっしゃいます。あのように軽い態度でフランクに接していらっしゃいますが……」
「……」
(もしかして、というかやはり、心護様やご当主様たちとは因縁が?)
心護に仕えている涙子がここまで取り乱すなんて、ただごとではない危機が主人にあるのかもしれない。
「あの態度で、色んな人を篭絡(ろうらく)してしまうのです……!」
「ああ、はい……」