「え……と、桜が一番好きです……」
「おお。時期ぴったりだ。母屋には行った? あっちは桜も植わってるでしょ」
「はい。たくさん咲いていて綺麗でした」
「だよねー。ここの三つの屋敷ってそれぞれ取り仕切ってる人たちがいるんだけど、敷地内の庭は、庭師が全部管理してるから、僕や心護の一存ではいじれないんだよね。兄ちゃんの許可が必要っていうか」
「そうなのですか」
うなずくと同時に、(兄ちゃん……?)と少し驚く琴理。
あまりにも砕けた呼び方だったので、新里と淋里は複雑な関係のようだが兄弟仲は悪くはないのだろうか、と考えた。
「琴理ちゃん、心護とはどこまでいったの?」
「セクハラですか?」
反射的にそう答えてしまってから、(しまった!)と頭の中で叫んだ。
琴理が生理的にそういう話がゆるせないタイプだったので、今まではうまくかわすとかそういうこともやってみようとしてきたが、威嚇が先に出てしまった。
琴理に言われて、淋里は慌てて手を振った。
「あ、ごめんごめん、女の子に失礼だよね。えーと、なんて言うか、心護って女の子に興味ないみたいなとこあるから、琴理ちゃんはどうなのかなーって」
そういうことだから、と訂正した淋里。
まだちょっと目が吊り上がってしまう琴理は、無理やり指で目じりを下げてみた。
「わたしは物心ついたころには心護様の許嫁でしたので、ほかの殿方と恋愛などあり得ません」
「それって琴理ちゃんも心護のこと大好きってこと?」
「え……」
(わたしが心護様を……なんだって?)
すぐには答えられない質問過ぎた。
「ええと……いい方だなとは思っています」
「そっかー。僕まだお嫁さんいないんだけど、いいなーって思っちゃうね」
琴理の返事は不明瞭だったが、淋里は特に突っ込みもしなかった。
「では、お付き合いをされている方などは……」
「いないよー。僕、付き合っても長続きしないんだよね。なんか飽きちゃって」
「………」
(じょ、女性とのお付き合いに飽きるんですか……それは淋里様に問題があるような……)
「だから」
すっと、淋里の視線が一瞬だけ鋭くなった。