え? と顔をあげると、和服姿の青年が琴理を見下ろしていた。
(――喋っていたの、聞かれた!?)
たった今のクマとのやり取りを知られてしまったかもしれない。見知らぬ人に。
「独りごと言ってたみたいだけど、そんなにつらい? どこの子? うちに用事あったの?」
『うちに』という一言で、琴理は青年の正体にまさか、という疑念を持った。
そんな言い方をゆるされる人は数少ない。
慌てて立ち上がる。
「失礼ですが、宮旭日淋里様でいらっしゃいますか?」
「うん、そうだよ」
「申し遅れました。わたしは花園琴理と申します」
名乗って、琴理は深く頭を下げた。
甥の許嫁を知っているかはわからないが、宮旭日の人間に対して無礼な態度はとれない。
「あ、きみか。心護の彼女ちゃんって」
その言い方に琴理は肩がずっこけそうになった。『彼女ちゃん』って……。
「ええと……許嫁です……」
「うんうん、心護の自慢の彼女ちゃんだよね。うちに来たって聞いてたけど、早速迷子?」
訂正もまともに取り合ってもらえなかった。そして異様に軽い。
心護や新里が堂々と、そして重々しい雰囲気を纏っているのに対して、淋里はチャラいと言うかイマドキというか……。
見た目も、心護の叔父というよりは、少し年の離れた兄と言った感じだ。
「迷子ではありません。案内してもらっている涙子さんが、用事があって心護様の離れに戻っているので、散策がてら待っているところです」
「そっか。そっちの離れ人数少ないからねえ。じゃあ僕も一緒に待ってよっと。やっぱり花はいいよね~」
「え……」
いいのか? と頭の中で自分に問いかける琴理。
淋里は琴理とともにいることを確定してしまったようで、先ほどまでの琴理と同じように花壇に和み始めてしまった。
「琴理ちゃんはなんの花が好き?」
琴理がどうしようと迷っていると、淋里が話を振ってきた。