(なんというか本当に……)

残念である。

絶対に口にはしないが。

「ま、まあ、詩さん、つきっきりは難しいと思うけど、琴理のことよろしく」

「万事心得ております。ご心配いりません」

「琴理、行って来る。でも、無理はしないように」

先ほどと似たような言葉を繰り返して、心護は出て行った。琴理は、「はい」と答え見送る。

琴理が詩を振り返ると、詩は合図のように手を合わせた。

「さて、琴理様。花園様からの荷物などは午前中に届くそうです。それまでは涙子に敷地内の案内をさせますね」

「お手数おかけします。よろしくお願いします」

「琴理様、お気遣いくださるのは嬉しいですが、あまりわたくしどもに畏まらなくて大丈夫ですよ」

詩に言われて、琴理ははっとした。

花園での琴理は学ぶ側だったので、教師に対して横柄な態度を取ったことはない。

詩が言ったのは、宮旭日で偉そうにしていろ、なんて意味では決してないが、自分を下げ過ぎるのもよくないのだ。

「はい。気を付けます。涙子さんを呼んできてもらえますか?」

「承知しました」

琴理は母屋から帰ってきたとき、一度部屋に戻って普段着に着替えている。

ロングスカートに、ブラウスとカーディガン姿だ。

このまま涙子に敷地内を案内してもらうつもりなので、玄関で待っていることにした。

(普通に考えても、炊事洗濯掃除などの家事に、心護様のスケジューリング、サポート、母屋のご当主夫妻様との連絡係に、ほかにもこまごましたことがありますよね。公一さんは心護様につきっきりのようだし、執事さんを含めて実質動けるのは四人……少数精鋭といえばそうですが、忙しすぎますね……。迷惑をかけないようにしましょう)

この離れにいる面々を思い出し、琴理は自分に誓った。

間もなく涙子がやってくる。昨日も思ったが、ここでの使用人の正装は、動きやすい和服らしい。