――自分がしたことはとんでもないことだと、今ごろわかった。

命を愛理にあげるつもりだった。

自分が許されなくてもいい、罪を持って坂を下ろうとしていた。

だがそれは、鬼畜の所業だ。

琴理が鬼となるところだった。

心護に見つけられていなければ。

命を押し付けられた愛理は、どう思う。どう生きていくことが出来る。

姉の命と引き換えの命を、あの子が純粋に喜ぶはずがない。

どうしてそこまで考えなかった、考えつかなかった。自分の思いだけで突っ走って、取り返しのつかないところまで進むところだった――。

ぞくりと、背筋が冷えた。

なんだか、本当に取り返しのつかないところまで進んでしまっているのかもしれない。

現に、会うはずのない心護と出逢ってしまっているのは、そういえば何故だ? 

琴理の傍に式を置いていたなんて知らなかったし、自分はそんなに危なっかしい性格だと思われていたのだろうか。

実際に危なっかしいことをしてしまった身としては、怒ることは出来ないかもしれないが……。

「……先ほど聞きそびれてしまったのですが、どうしてわたしが家を抜け出したことがわかったのですか?」

「それ、は……」

急に、心護が視線を泳がせだした。

「琴理様、それは代わって私から。若君は琴理様のことを心配に思うあまり暴走して、花園様に無断で自身の式を琴理様の傍に置いていたのです。その式から琴理様に変事ありとの連絡が来まして、駆け付けた次第です」

「………暴走?」

「するんですよ、この若君は、割と。琴理様に関してだけですが」

「公一さん! 余計なこと言うな」

「勝手に式を置いていた件に関しては花園様の了解を得ていないことなので、こちらの方が琴理様に黙っていてくださいとお願いすべきことなのです。琴理様の件と若君の件、相殺されますので若君の言うことなんか聞かなくていいのですよ」

「公一さん!」

心護が怒ったように声をあげても、公一はしれっとしていた。

公一は心護に対して割と言いたい放題というか遠慮のない物言いをするが、心護も言い返しはしても気分を害した風はないので、しっかりした関係があるのがわかる。

「女性の弱みにつけこむなんて紳士のやることではありません。そんなことをしないと話も出来ない自分のヘタレを悔やんでください」

「………」