そんな話、琴理から聞いたことがない。
心護は本格的に話を聞く体制に入った。
「……愛理嬢が姉だった、と?」
「ええ。二人姉妹で、妹はとてもとても可愛かったのです。ですが……」
上機嫌で『前世の琴理』を語る愛理だったが、そこで急に憎悪の表情に変わった。心護はその意味を問う。
「何かあったのですか?」
「婚約者だった男に浮気の末捨てられ、宿っていたその男の子どもを産んでお産で亡くなったのです」
「――――は?」
心護から出たのは、地獄のような声。
「わたくし、あのクソゴミ男を今でも恨んでいますわ」
胸に手を当てた愛理は一転、周囲にキラキラと光りが待っているようにすら見える清らかな顔で告げる。発した言葉の内容を清濁併せ呑みすぎている。
心護の声は更に険に染まった。早口になる。
「その男は今世にもいるのですか? 生まれ変わっている?」
「今のところ出会ってはいないのでわかりかねますが――」
「もし出会ったら教えてください。琴理に接触する前に俺がこの国から消します」
「ありがとうございます。その判断は助かりますわ。大いに権力を行使してくださいまし」
「もちろんです。琴理の安寧のためなら使えるもの全部使います」
前世とはいえ、心護にとっては愛しい琴理に変わりのない存在だった。
そんな扱いをした愚か者がいるのなら、地獄に突き落としても気が済まないだろう。
ふつふつと、心の中が煮える。どうしようもない苛立ちに襲われる。
それが当主となるべく生きてきた心護にとって不必要なのもので、排斥しなければいけないものだとわかっていた。
だが琴理をぞんざいに扱われると自分はこうなるのか……と、頭の中の冷静な部分が解析していた。
愛理が、年齢にそぐわない大人びた笑顔で見せた。
そのそぐわなさが、心護を現実の『今』に引き戻す。



