「ごめんなさい、琴理……」
「か、母様、泣かれるほどのことでは……」
「いいえ、母が浅慮(せんりょ)でした。琴理には琴理の意思と想いがあるのに……琴理は心護様を心から愛しているのね」
「……―――え?」
反応するのがかなり遅れて、その言葉だけが琴理の口からこぼれた。
腕を離した母は、きょとんとする娘を見て、ふふ、と笑った。
「あら、図星をあてられて恥ずかしい? お父様の前だからかしら?」
「蘭可、琴理は十分に宮旭日でやっていけるよ。心配することはない。琴理、一に心護様を頼りなさい。そして二に花園を頼りなさい。――花園は、琴理とその夫につくよ」
それは、琴理の選んだ者を花薗の主と認めるということ。
花園の主である父から言われて、琴理はその言葉を胸に刻んだ。
+++
――応接間に残った心護は、立ったまま愛理に話しかけた。
「よく俺の話にのってくれましたね。ご両親に対抗する内容だったのに」
心護が二度ほど、愛理に解答を求めたことだろう。愛理は自分の胸に手をあてる。
「わたくしを産んでくだったことを両親に感謝しておりますが、わたくしの『大事』は姉様に傾きますので。姉様に恥をかかせるわけにはいきませんわ」
「あくまで琴理第一ですか」
ため息のような言葉が心護からもれる。
琴理、とその名前を口にするときの表情(かお)を見て、愛理は伝えることを決めた。
――生まれて初めて、口に出す話を。
「ええ。……宮旭日心護様は不思議に思っておいでかと思いますのでお伝えしておきます。わたくし、人生二回目ですの」
穏やかな口調の愛理に、心護は一度瞬いた。その言葉を頭の中に取り込もうとしているように。
「……人生?」
「簡単に言えば、前世の記憶があるのです。宮旭日様は前世を否定されますか?」
「……仕事柄否定は出来ないですね」
「それはようございました。前世、姉様はわたくしの妹だったのです」



