不意を衝かれた琴理だが、意識はすぐに妹の体調に向く。
「愛理とですか? 愛理――」
疲れているでしょう? と問いかけようとしたが、愛理はしっかりした表情でうなずいた。
「わたくしは構いませんわ。姉様にも出ていてもらった方がよろしいのでしょうか?」
「ええ」
心護にそう言われてしまっては琴理に異を唱えることは出来ない。
むっとした気持ちが面に出ないようにして、琴理は両親とともに退室する。「僕は車戻ってるねー」と、淋里はさっさと出て行ってしまった。
心護と愛理を室内に残して、廊下に出る形になった琴理と両親、涙子と風子。風子は心配そうな顔で閉まったドアの方を見ている。
「琴理――」
声をかけてきた母に、琴理は体の正面を向けた。
「父様と母様も、どうぞお戻りになられてください。わたしが帰ってきたためにお忙しくさせてしまい申し訳ありません」
そう言って頭を下げると、母から切羽詰まった声が聞こえた。
「いいえ、琴理。ごめんなさい。母は勝手な思いで琴理にも心護様にも失礼なことを考えていました」
「そんな――」
ことはない、と琴理は言いかけたけれど、実際問題自身が淋里の相手に望まれていたと知った瞬間は「はあ?」とドスのきいた声が心の中と脳内に充満していた。それくらいには不満な話だ。
心護にしたって、己が許嫁に望んでその位置にいたのに、親が心の中ではほかの者を望んでいたなど、裏切りでしかないだろう。
「――父様、母様。お二人が望まれなくても、わたしは心護様に嫁ぎます。その場合わたしは花園の駒でなくなりますが、心護様はわたしの『理由』です」
琴理は両親をまっすぐにとらえて、その目を見つめながら言葉した。
琴理は自分の家や仕事を把握しているので、自分が『駒』であることも理解していた。
両親がくれるものが無償の愛情であっても、琴理は花園の人間。意思を持った駒だ。
「琴理……っ」
母が泣きそうな声で名前を呼んで、琴理の背中に腕をまわしてきた。



