入院してから、早いもので三ヶ月が経過していた。


「沙苗、晶くんが来てくれたわよ」

「沙苗、来たぞ」


晶は相変わらず毎日のように来てくれるけれど、そんな晶の声に返事をする体力は無い。


「晶くん、毎日ありがとう」

「いえ、他にできることないですし。おばさんもしっかり休んでください」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、ちょっと今コンビニ行ってくるわね」


晶が来るとお母さんは適当な理由をつけて席を外す。
多分、気を遣ってくれているのだろう。気にしなくていいのに。

今の私は毎日が酷く眠くて、全身がだるくて、何もしたくない。

デッサンをするどころか、もう起き上がることもできなくなってしまった。


「沙苗?起きてるか?」


私の顔を覗き込むように見てくる晶に薄目を開いて頷くと、晶は


「なんだよ、また来たから暇なやつだとでも思ってんだろ」


とにやりと笑う。

晶の涙を見たのは私の病気がバレた日だけで、それ以降は晶は必ず私に笑顔を見せてくれる。

寝たきりで食べられなくなってひどい状態の私を見ても、引くわけでもなく眉を顰めるわけでもなく、ただ優しく笑ってくれる。

今までと変わらずに接してくれるその姿勢が、私にとってどれだけ嬉しいことか。

晶はここに来て何をするでもなく、ただ私に語りかけるように昔話をしてくれる。


「覚えてるか?中学のころ、お前が禍々しい絵を描いてて、俺が見ちゃった日のこと」


……覚えてるよ。


「最初誰かのこと呪ってんのかと思ったくらいビビったけど、あの時お前が泣きながら描いてるの見て、違うってわかった」


泣いてたっけ。それは覚えてないや。


「俺、確かあの時、お前の絵が好きだって話しただろ」


うん。その言葉が、スランプだった私の心にスッと沁みてくれたんだよ。
その言葉があったから、ここまで絵を続けてこれた。


「俺は絵の知識なんて無いけど、お前が描く絵はいつも丁寧で、繊細で、妥協って言葉を知らない感じで。自分の描く絵に正面から向き合ってるのがなんとなくわかるんだ。お前の真面目な性格が出てるって言うか……なんか上手く言葉にできないけど、好きなんだよな。何か訴えかけてくるものがあるんだよ。あのスランプ時期の禍々しいやつも、誰にも言えないようなお前の感情がそのまま出てるんだろうなあと思って。今思うと俺、あの絵も結構好きだったよ」


……そんなこと、言われると思ってなかった。

嬉しいこと言わないでよ。泣けてくるじゃん。

ていうか、結構好きだったんなら"禍々しいやつ"だなんて何度も言わないでよ。なんて。それは冗談だけど。