きっかけは、一年ほど前から利き手である右手の肩らへんに、痛みを感じるようになったこと。

最初は痛めただけだろうとか、筋肉痛か?腱鞘炎みたいなもの?とか。色々考えて放置していた。

しかし、しばらくして右肩が腫れてきて痛みもどんどん強くなり、筆を持つのもつらい時があった。

ネットで症状を調べて自分が病気かもしれないと気が付いてからは、それを隠すことに必死になっていた。
"切断"という文字を見たからだ。

両親に言わなきゃと何度も思った。だけど、言ったら腕を切られるのかと考えたら、言えなかった。

上手く絵も描けなくて、美大という目標も曖昧になってきてしまい、毎日ただ無意味に時間が過ぎていくだけの私にこの右腕は必要ないかもしれない。

だけど、切断という文字を見たらいてもたってもいられなかった。


……どうしても私は、まだ絵を描いていたい。


描けなくなる可能性を知ったら、たまらなく嫌だと思った。

私は下手だ。誰かに評価されるような絵は描けない。

だけど、描くことが好きだ。描けない人生なんて、考えたくない。

そう思ったら、誰にも言えなかった。


そして二ヶ月ほど前、自宅でとうとう倒れてしまい救急車で運ばれた。

そこですぐに検査入院になり、診断されたのは自分で予想していた通り骨肉腫という病気だった。

仮にこれが早期の発見と治療だったら、治る可能性も高かっただろう。

しかし私の場合、騙し騙しで腕を使っていたからなのか、その時にはすでに病状はかなり深刻だった。

両親にはどうして黙っていたのかと散々叱られ、泣かれてしまった。

絵が描きたかったから。

そう言ったら、馬鹿だと言われて抱きしめられた。

その時に、"馬鹿"という言葉が口癖のようだった晶に会いたいと思った。