「学校行くよー!」

 翌朝も口元で作るメガホン。

「給食はエビフライだってー!」

 今日は中々窓が開かない。私の頭上からはまた一片(ひとひら)の桜が散った。

「こんなんじゃ、私まで桜を嫌いになっちゃいそうだよ……」

 桜が完全に散るまでに岳を家から出す。そんな目標を立てたが故に、悠々と散る桜が疎ましく目に映る。その視線を腕時計へ落とし、私は学校へと向かった。

「え。とうとう岳くんシカト攻撃?」

 今朝の話を奈津にすると、彼女は大爆笑。

「告白してだめなら登校拒否で、それでもだめならフルシカト!いやあ、岳くんまじですごい!普通なら諦めるよねそんなのっ」

 拍手をしながら岳を賞賛する奈津の気持ちにはちっとも寄り添えない。岳のことで吐く溜め息は、果たして今日で何百回目か。

「シカトも困るけどさ、岳ってばたぶん食事までとらなくなってきてるんだよ」
「え、なんで」
「知らなーい。ハンガーストライキとかいうやつじゃない?こっちを脅す為の行為だよ。最後に告白された時よりも、なんか痩せてた」

 ばかだよね、と奈津に同調を求めるけど、彼女は腕を組み、何やら思いに(ふけ)っている。

「奈津、聞いてる?」

 私が彼女の顔の前で手の平を行き来させると、停止していた彼女の黒目が動いた。

「あ、ごめん。なんかまじですごいなって思っちゃって」
「だよね」
「そこまでするなんて、他に目的でもあるみたい」
「他の目的?」
「目的っていうか他の理由っていうか。うまく言えないけど」

 不登校に無視にハンガーストライキ。岳がそうなった他の理由。少し考えてみたがすぐに答えの出せなかった私は話を戻す。

「だからさ、私ももう岳んち行くのやめようと思って」
「家?」
「うん。朝に無視された日は岳のとこ行かない。だって私だけが歩み寄ってたら岳の勝ちじゃん」

 こんなんじゃ、どちらが追いかけているのか分からないじゃないか。