私の名前はフレイア・シュテアリー。このリィス王国の公爵令嬢だ。
公爵令嬢と言うことで、婚約者もいる。婚約者はうちの公爵家の婿になる予定の第2王子ヴィヴィアン・リィス殿下である。

しかし私は知っている。地球の日本と言う国で生まれ育った記憶を持つ私は知っている。公爵令嬢とは、悪役令嬢として常に断罪される危機にあることを。

特に、婚約者の王子の態度が冷たいと……アウトだ。

その証拠に私の婚約者であるヴィヴィアン殿下は……。

「気安くぼくの名前を呼ぶな。吐き気がする」
見た目だけなら美しすぎるほどの氷の王子。黒髪にアイスブルーの右目とアメジストの左目、氷のように透き通る肌を持つ。年頃の令嬢ならば誰しも憧れる御方。名家の子女の通う王立学園では、ファンクラブもあるほどである。

しかし、その実態は……。

ツリ目がちな赤い瞳は悪女顔、このまばゆい金髪を派手だから嫌いだと罵り嫌う。何故私と結婚しなければならないのか、私が宰相の娘で公爵令嬢じゃなかったら、決して私となど婚約しなかっただの。

その上、このシチュエーションに合わせてぽっと湧いて出たような男爵令嬢アンナマリア・アプリコットを傍らに置いている。ミルクブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つかわいらしい令嬢である。

でもそれを注意すれば……私は悪役令嬢まっしぐらだから、言えない。むしろヴィヴィアン殿下には蛇蝎のごとく嫌われているのだもの。私が悪役にされるに決まっている。

さらにはファンクラブ。ファンクラブが厄介だ。私はヴィヴィアン殿下の婚約者だが、当の本人に嫌われていることで、ファンクラブの令嬢たちも私をなめてきている。

むしろヴィヴィアン殿下とのお茶会権やパーティーでのエスコート権を私から取り上げ奪う始末。あげられるものでもないのだけど……。上手くいけばヴィヴィアン殿下を我が物に、王子妃になれるかも知れないと言うありもしない希望に、彼女たちは囚われているのだ。

まぁ、お茶会権もパーティーでのエスコート権も全部アンナマリアが持っていくのだけど。

だからこそ彼女たちは男爵令嬢であるアンナマリアをライバル視、せめて私には負けたくないと意気込んでいるのだ。

この私の状況に対しては……宰相のお父さまはカンカンである。もういっそ婚約破棄も考えているらしい。私としては……それまで断罪されないように気を付けなくてはならない。

でもなぁ……。作ってみてしまった。バレンタインデーの、チョコレート。

異世界なのに、何故かバレンタインデーイベントがあるのだ。
貴族の令嬢は普段、料理などしないのだけど、お菓子作りはすることがある。だから最近は、こうして手作りチョコを作ってくる令嬢も増えているのだ。まぁ、高級チョコも……買うけれど。

しかしどうしてか、侍女たちに進められるままに……作ってしまった。むしろ、いつも激務をこなすお父さま向けに指南してくれたのだろうか。
だがしかし、できたのは2つ。
もう1つは自分用……とも見なせるのだが……何故学園に持ってきてしまったのか。

じっと、チョコレートの包みを見つめていれば、不意に不快な声が響き渡った。

「きゃぁぁぁぁっ!?フレイア・シュテアリーが学園にチョコレートを持ってきているわ!?」
何故学園にチョコレートを持ってきただけで絶叫されないといけないのかしら。私を指差してくるアンナマリアを見れば。

「ぎゃぁぁぁぁっ!睨まれた!睨んでくるぅっ!こわぁぁぁいっ!」
普通に見るだけでもダメなら、どうすれば。

「まさかヴィヴィさまにチョコを!?アンタみたいな悪役令嬢が持ってきたチョコなんて、媚薬でも入ってるんじゃないの!?こんなものっ」
アンナマリアが私のチョコをはたき落とした。

「あ……」

バサリ……と、落ちたチョコレートの包み。やはり、持ってくるべきではなかった。しかしその時、あり得ない声を聞いた。

「それは……俺の……。俺の……っ!」
ヴィヴィアン、殿下……?
何だか一人称が違わないかしらと思った瞬間、ヴィヴィアン殿下が……絶叫した。

「俺のフレイアたんが作ってくれた、手作りチョコおおおぉっ!」
……はい?


いつもなら、アンナマリアに何をしているのかと怒り出すくせに。何故……。

「あぁぁぁんっ!ヴィヴィさまぁっ!フレイアさまが恐いの!私のこと睨んできたけど、ヴィヴィさまに媚薬入りチョコを食べさせようとしてたの、私がはたきおとしてあげたのよ!」
ヴィヴィアン殿下がいつものようにアンナマリアを庇わないから、アンナマリアの方から迫っていく。

――――が。

この先もいつもと違った。

「うるさいどけぇっ!メスブタアァァァッ!!!」
女の子に対してそれはさすがに酷いんじゃ……?
この前まで『ぼくのかわいい妖精』とか言っていなかったかしら。

そしてヴィヴィアン殿下はサッと私のチョコを拾い上げると、パッパッと土をほろい……次の瞬間思いっきり鼻の下を伸ばした。

「あぁ……フレイアたんフレイアたん、フレイアたんの手作りチョコゲットおおおぉぉぉっしゃぁぁぁっ!でもリア充は爆破しろおおぉぉぉっ!!!」
「あの……ヴィヴィアン殿下……?その、フレイア、『たん』とは一体……?」
しかもリア充爆破って……あなた今までリア充街道爆走していなかった?むしろ充実しすぎていたと思うのだけど……。

「あぁ、嬉しい……!フレイアたあぁぁぁんっ!!!」
「ひゃっ!?」
しかも衆目の面前で抱き付くとか、何考えてるの!?
「あぁ、もう……っ、フレイアたんかわいい!尊い!今、君を抱き締めたい!」
いや、もう抱き締めてますけど……っ!?
そして抱擁を緩めると、今まで見たこともないほどにうっとりとした表情で私を見下ろしてきた。

「フレイアたん……フレイアたんフレイアたんフレイアたんフレイア……たあぁぁぁ――――――んっ!!!俺のこと、こんなに好きなんだね……っ!あぁ、嬉しい。超嬉しい媚薬盛るほど好きだったなんて……っ」
「いや、その、私は媚薬なんて……」
盛ってませんけども……?

「はぁ……あぁ、フレイアたんが作ってくれたチョコのお陰だろうか……。今俺は、猛烈に身体が火照っている!今すぐ……脱ぎたい……っ!」
大真面目な顔で何つーこといってんの、この王子は……っ!

「お……お止めくださいませ!衆目の面前ですし……その、まだ食べてはいらっしゃらないでしょう!?」

「なら、食べてみるまで!」

「お止めください、ヴィヴィアン殿下!!」
さすがに護衛の近衛騎士が飛び出して来るが……。

「貴様ぁっ!愛しのフレイアたんが作ってくれたチョコレートに手出しをするなぁっ!!」
容赦なく風魔法で駆除――――――っ!!
「ぎゃぁぁ――――――っ!?」
近衛騎士ちゃんと仕事しただけなのに理不尽すぎる~~っ!

「こらっ、止めなさい、ヴィヴィ!」
あ……思わず昔みたいに……。ん?
「……しゅんっ」
わりと効いてる!?

「あ……ごめんなさい、昔のくせでっ」
それはもう昔の話。あなたは変わってしまった。……さらに変わってワケわからなくなってしまった。

「フレイアたんの『こら』めちゃすきかわたんばりかわゆす」
「ちょっと何を仰っているのか分かりませんが」
しかしそうこうしているうちにチョコの包みは取り払われ、ヴィヴィがもひもひもひっと口に入れてしまった。

「あぁ……美味しい、この蕩けるような口どけ……っ」
「生チョコ、と言うそうですわ」
実は知ってるけど。前世にあったから知ってるけど……こちらの世界でも流行りはじめたもので。
うちのシェフ直伝なので味は……大丈夫なはずである。
そしてさらにヴィヴィがもらした言葉に絶句する。

「フレイアたんのおっぱいみたい」
え……?

「は……?おっ、おっぱ……っ!?そんなわけがありますか!」
何を言い出すこのエロ王子!!!

「では、同じかどうかさわらせて確かめさせてくれ!」
はい――――――――っ!?さらにはセクハラ王子か!?

「わ……わたくしたち、まだ婚前ですのよ?」
貴族の娘として貞操は……守らねば!

「構うものか!」
「いいえ、構います!」
どんどんなりふり構わなくなってくる!このエロセクハラあたおか王子!

「う……っ、だが、身体が火照って……。君のおっぱいを揉まないと今すぐここで……全裸になりたい。おぱんつ下ろしたい……っ」
「だからダメだと……っ、せめて個室で……っ!そうだ、ちょうど我が家の馬車が来ておりますから!」
ちょうど放課後で助かったわね……っ!?


運良く来ていたうちの馬車の中に、ムラムラしまくっている変態王子を通す。

はぁ……一体何がどうして……。まさか本当にチョコに媚薬が……?いやそんなもの入れていないし。そもそもチョコを食べる前からこのひとおかしかったわね。

御者は今まで私を冷遇してきたヴィヴィ同伴であることにびっくりしていたものの、一応婚約者と言うことで無理を押しきって、馬車は出発した。
お父さまが知ったら荒れそうだけど。

「あぁ……フレイアたんのおっぱい……っ!フレイアたんの……おっぱぱぱ――――いっ!」
ムラムラしている。どうしようもなくムラムラしている、この男。
しかしこの男と馬車の中で2人っきりとか大丈夫かしら。思えば密室よね!?いやいざとなったら御者もいるし……。

「おっぱいおっぱいおっぱいっ!フレイアたんのおっぱいいいぃぃっ!!!」
「んもぅ、しつこいわね!そんなに言うならさわってみなさいよ!!」
女は時に度胸!度胸の胸はおっぱいって書くのよ!

「でも……っ、今までのこと、詫びてからよ!」
「今までの……こと?」

「散々私に冷たくして、浮気したじゃない!そのことちゃんと詫びなきゃ、私のおっぱいはさわらせないわよ!!」
「それは……っ、俺の本心じゃなかったんだ……っ」
ヴィヴィがしゅんと大人しくなる。

「今まで何か操られるようにして、そうしてしまった……でも、今は目が覚めたっ!やっぱり俺は……フレイアたんが大好きだ!愛してる!フレイアたんのおっぱいぱふぱふしたい!フレイアたんの髪くんくんしたい!フレイアたんの太ももに顔埋めったぁぁぁぁぁ――――――いっ!!」
「何てこと言ってんのよこの変態いいぃぃっ!!!」
ほんとに目ぇ覚めてるの!?覚めてるって言うのかしら!?何か別のものに呑まれてない!?

「だから……」
「う、うん……?」
またちょっと大人しくなった……?

「今まで本当に、済まなかった」
王子のくせに……そんな素直に、頭下げるなんて。

「分かったわ。謝罪は、受け入れます」
「フレイアたん……っ」
そのフレイア『たん』もどうにかしてほしいのだけど……。

「じゃぁ……フレイアたんのおっぱい……っ!」
「うぅ……」
謝ったらって……約束ではあったものね……?

「少し……だけだから」
ゆっくりと腕を下ろして、深呼吸をする。すると……。

がばっ

ぱしゅっ

むにゅっ

「ひゃぁ、あん……っ!?ちょ……ヴィヴィ……っ」
いきなり両手で来るとか!?

「やっぱり……生チョコ……!」

「殴りますわよ!?」
「何でっ!?」
何でって言われても……何となくよ!!



公爵邸につき、一応王子だし、おもてなしはしないとだから、ヴィヴィを応接間に通した。

「フレイアたんのおったく~、フレイアたんのおっうち~~、フレイアたんのお部屋でも、いいよ!?今からエッチなことしようか、俺、今すっごくムラムラしてるから!」
「ダメに決まってんでしょうがっ!」
どさくさに紛れて何を言い出す。その様子に、私とヴィヴィの冷え込んだ仲を知っている公爵邸の使用人たちもぎょっとしている。

そしてそんな中、ヴィヴィの護衛をしていた近衛騎士が到着した。

「あのー、すみません。包みに残った成分を分析したら、媚薬が検出されました」
ええぇぇっ!?そんなバカな!しかし、ヴィヴィはと言えばまたも意味不明なことを言い出す。

「貴様ぁっ!何をしている!あの包み紙は後でぺろぺろするつもりで取っておこうと渡したんだぞ!?ちゃんと俺の部屋に運ばんかぁっ!!」
「止めなさい!汚いですわよ!あと、絵面的に王子が包み紙ぺろぺろはいかがなものかと!」
ほんっと何てことしようとらしてたのこの変態王子!近衛騎士は……いい仕事をしてくれた……!
しかしヴィヴィの反応はまた明後日の方向を向く。

「フレイアたんのぺろぺろ……かわゆすっ!フレイアたんのぺろぺろかわよ――――――っ!!!萌え――――――――っ!!!」

「……はいっ!?」
どんなところに萌えてんのよ、この変態いぃぃっ!
しかし……。

「あの……わたくしとしては……その。媚薬は盛っておりませんのよ?」
だから媚薬が検出されるだなんてあり得ないのだけど。
するとヴィヴィが。
「照れてしまって……かわいらしい」
「照れていませんわよ!」
また鼻の下伸ばしてやがるぅっ!
そして近衛騎士もヴィヴィを訝しげに見つつ、告げる。

「時折料理やお菓子に治癒効果が乗る……と言う現象を聞いたことがございます」
「聖女の奇跡ね」
私はそんな大層な存在ではないのだけれど。
「ええ、ですので試しに何か作ってみてはいかがですか?」
「……んー、それもそうね」
お菓子作りなら……いくつか、作ってみようか。

そしてシェフに教わりながらお菓子をいくつか作り終えると……城から鑑定士がきた。
そして鑑定士いわく……。

「媚薬成分を検出しました。恐らくそう言う体質なのでしょう。これからは料理やお菓子作りのたぐいは止めた方がよろしいかと……」
マジでそうなの!?じゃぁお父さまにあげる予定だったチョコもあげないほうがいいわね。
しかし、それでも明後日の方向を向くのは……何かなれた。もう既になれてしまった。

「あぁん、素晴らしいっ!フレイアたんはそんなに俺のことが好きなんだな……っ!?俺のために媚薬入りの手料理お菓子を作れるなんて!俺は……俺は愛されてるううぅぅっ!」
どんだけポジティブ通り越した極論引っ提げてんのよ、コイツは!

「いや、殿下に作るかいなかは関係ないかと……」
鑑定士が正論で返すものの……。

「フレイアたんの手作りだぞ!?俺以外に作るだなんてあり得んんんっ!」
そう言う思考に至るのかよ……っ!!!

「これ、全部食べるから……!!」
はいっ!?結構な量よ!?作った私も私だけど!全部ほんとに媚薬入りになるだなんて思わなかったのよ!

「いや、過剰摂取に……」
ほら、鑑定士もそう言ってる……。
「食べるんだもんんんっ!」
駄々っ子かぁぁぁいっ!

「こら、ヴィヴィさま、めっ!数日に分けて食べなさい!」
んもぅ、これしかねぇっ!
「しゅん、きゅんっ、萌えっ!!」
ま、運良く丸くおさまったし、いいわよね!

――――とは言え、案の定。

「はぁ、はぁ、身体が熱い……今夜は、共に身体を重ねようか、フレイアたぁんっ」
そりゃそうなるわよ。まぁ鑑定士の他にも医療魔法使いが来て監修のもと食したわけだが。見事にヴィヴィは酔っている。媚薬に酔っている。多分……違うものにも酔っているでしょうけど……っ!

「……いえ、その。まだ婚前なので、ダメですわ」
その言葉は予想以上にヴィヴィの心にクリティカルヒットしたらしい。
ヴィヴィが勢い良くガタンと膝から崩れ落ちる。近衛騎士ももうついていけなくてヴィヴィの反応を放置している。
そしてヴィヴィは叫んだ。
「い――――やだぁぁぁぁぁっ!俺はフレイアたんと結婚すゆううううぅぅぅ――――――っ!!!」
やっぱり駄々っ子よね。ただの駄々っ子よね!?

そしてヴィヴィは突如立ち上がり、勢い良く飛び出していき、近衛騎士が慌てて追いかけていった。


――――2時間後。紅茶が……美味しいわね。

「結婚、したぞ!」
「はい!?」
突如帰ってきたヴィヴィにびっくりして顔をあげる。

「結婚って……その……」
「父上から、結婚を許可する命が出たぁっ!!!」

「はい――――――っ!?」
確かに国王陛下の許可があれば、王命なら結婚できるけど……お父さまは納得したのかしら……?

そしてその時、廊下からものすごい音が響いて来たと思えば。

「おい、ゴルラァッ!!!殿下あぁぁぁっ!」
ぎゃぁ――――――――っ!?まだお仕事でしょうにお父さままで乗り込んで来たぁ――――――っ!

「私は……私は娘との結婚など認めんぞぉっ!!」
まぁ、そうよね。今までの浮気やら私への冷遇について、激怒していたものお父さま。お父さまの力で婚約解消目前とまで言われていたもの。そんな状況で、ヴィヴィは一体……。

「お義父さん!今ぼかぁ、娘さんに最高にムラムラしています!」
はい――――――っ!?お父さまに何てこと言ってんのよ、アンタはぁっ!

「出てけっ!」
お父さまが一蹴する。そりゃそうだ。しかしヴィヴィもまた、諦めない!

「お義父さん!今ぼかぁ、フレイアさんに最高にムラムラしています!」

「くたばれっ!」
ほんとそれな!?

「お義父さん!今ぼかぁ、フレイアたんのおっぱいに最高にムラムラしています!」
まだ言うかぁ――――――っ!
「死ねええぇやぁあぁあぁ――――――――っ!!!」
そしてお父さまの臨界点越えたぁぁぁ――――――……でもおおぉぉっ!!!
「お止めください、お父さまぁぁぁぁ――――――っ!!!」
さすがにそれは……一族郎党処刑の上、使用人たちも路頭に迷いますうううぅぅぅ――――――っ!!!

※※※

「フレイアたんとのエッチは卒業までおあずけか、しゅんっ」
そりゃそうだろうに!!
でも……。

「フレイアたん、おいで」
「あぁ、うん、ヴィヴィ」
幼い頃のように、手を繋いで歩くのは……何だか懐かしいわね。
学園にも今は一緒に通っている。むしろヴィヴィが私と結婚したことをいいことに、公爵邸に居候し出したから、自ずと一緒なのよね。

さらには……。

「ヴィヴィさまぁ~~っ!」
来た……!アンナマリア!

しかしヴィヴィは……。

「貴様、俺の名を呼ぶな。不敬罪で牢屋にぶちこむぞ」
「ひぃうっ!?」
ヴィヴィの態度が違いすぎる――――。
「うわぁぁぁんっ!私のヴィヴィが……!そうだ……フレイアに媚薬で操られてるのよ!!」
いや……確かに私の媚薬入りお菓子は食べてるけども、お父さまに睨まれながら堪能しているけども。でも本人の希望だし、違う意味で何か酔ってるから、媚薬盛った方がいくぶんかましだと思うわよ。

「貴様ら、コイツを牢にぶちこめ」
ほんとにいった!!
『はっ』
覚醒したヴィヴィに、近衛騎士たちも張り切っているようだ。それで張り切って、本当に大丈夫なのかしら。

そしてアンナマリアは連れていかれた。その後実家の男爵家に返されたらしく、学園は退学したそうだ。さらにはファンクラブもあったのだが……。

アンナマリアがいなくなったことでライバルが減ったと調子に乗ったのだろうか……?

私とヴィヴィのお茶会に無理矢理乗り込んでヴィヴィとお茶をとねだったが。

「フレイアたんとのお茶会を邪魔するだと……?貴様……俺の前で切腹しろ。介錯は自分で用意しろ」
何つー恐怖政治だ。さすがに止めたけど……。私もこのままじゃぁいられないわね。パーティーのエスコートでさえ無理矢理奪い取ろうとして、パーティー会場でヴィヴィが魔法ぶっぱなそうとするんだもの。

お父さまに相談して、ファンクラブを形成するコたちの家々に直々に脅迫じょ……いや、お手紙をしたためて牽制させていただいた。これ以上やったら家ごと潰すと言う気持ちを込めて。

その後も何度か邪魔は入ったけど、退学者が何人か出た後は落ち着いた。

「やっと静かな学園生活が送れるわね」
「フレイアたんフレイアたんフレイアたん、フレイアたんのおっぱいおっぱいおっぱぱぱぱぱ」
いや、静かじゃなかった。

「こら、ヴィヴィさま、静かに!おっぱい揉ませてあげませんよ!」
「しゅんっ」

取って置きの呪文も思い出したし……まぁよしとしよう。



【完】