白く長い廊下を歩きながら到底越えられそうにない壁を眺める。小さい頃は壁の向こうに行こうと必死になったものだなと笑みをこぼす。だが、その夢も今となっては心の隅へと追いやられていた。
「あら、ラン様。お仕事終わりですか。お疲れ様です。」
「ノーティー、その"ラン様"っていうのやめてくれないか。」
侍女のノーティーはからかうように話す。
「しょうがないでしょう。これが身分の差というやつです。」
ノーティーはランの乳母の娘で昔から兄弟のように育ってきた。最近、王宮で働き始めたのだが、その役職がランの侍女だった。ノーティーは根っからのイタズラ好きで昔からランはその標的にされていた。今では、王子と侍女という身分の差を利用してまでからかってくる。王族をからかうほど肝が据わってるのはビスクスでも彼女くらいだろう。本当に昔から何も変わらないなと思わず笑ってしまった。
「ちょっと、何笑ってるんです?」
思った反応と違ったせいか、ぶすっとした顔でランを見つめる。
「いいや、なんでも」
「はぁ。まぁ良かったです。」
ノーティーは優しく笑いかけた。ランは驚き、目を見開いた。こんなに優しい笑顔は久しぶりに見た。
「最近のラン様の周り空気が異常に重かったですから。」
そんなにでは無いだろうと少し拗ねる。
「ですから、私がラン様の周りを清浄してあげたんです。」
ノーティーは得意げに言った。ランは侍女がノーティーで本当に良かったと思った。昔から変わらず接してくれるのはノーティーだけだったから。ノーティーと話している時だけは王族ではなく普通の人になれる。
「では、私は仕事に戻りますね。」
ノーティーは小さくお辞儀をして小走りで去っていった。
「ああ」
ノーティーと話したことで少し気分が晴れた。ランは笑顔で執務室の扉を開けた。
「お、今日も手伝いに来てくれたのか。」
短髪の朗らかな笑顔がランを迎え入れた。現国王のトープだ。
「当たり前だよ。兄上」
「あ〜〜ランは相変わらずいい子だな〜。」
トープはランにベッタリだった。