素直に「ありがとう」と一言言えばいいだけなのに。



「杏奈ちゃんは優しいね」


「…は?」


「全然ひねくれてなんてないよ。今だって俺のこと気にしてくれてるし、杏奈ちゃんが本当は誰よりも優しい子だって俺は知ってるよ」



にこっと優しく微笑まれ、「は、はあ!?」と返すので精一杯だった。



「な、何言ってんの、あんた頭おかしいんじゃないの!?これ、戻しといてよね!」



ゼッケンの入ったかごを桐谷に押しつけて、走って学校を出る。


十月の冷えた風が頰にびしばし当たってくるというのに、一度熱を持った頰の熱さはなかなか引かなかった。



「あれ、杏奈、走ってきたの?」



先にハンバーガー店に入ってシェイクを飲んでいた中学からの唯一の友達、結城双葉(ゆいしろふたば)が、はあはあと息を切らせて飛び込んできた私に不思議そうに首を傾げた。