「ごめんな、羽奈。あの時、ちゃんと話そうとしなくて。聞いた時、びっくりして。……でも本当は、すげぇ嬉しかったよ」
そういうと、羽奈の頬が赤くなる。
「……ううん。私もごめん。逃げちゃって。返事を聞くのが怖くて。同じ気持ちじゃなかったらって考えたらいやだと思って。それからも私、態度悪かったし……でもその、嬉しかったっていうのは、今聞いてびっくりで、予想外すぎて…あの」
と話しながら、泣き出して涙を拭う羽奈。
そんな姿を見て、自然と肩を抱き寄せていた。
それから、羽奈が落ち着いて、過去の細かい誤解をお互いゆっくり解いていった。
羽奈、今までに誰ともお付き合いしたことがない、お断りしていたって言うんだから衝撃で。
俺も羽奈も、本人から直接聞いたわけじゃない情報で、色々想像して、どんどん距離が広がっていたことがわかった。
好きで大切な分、考えすぎていた。
もっと早くにこうしていたら、こんなにすれ違わなくて済んだのかもしれない。
でも、好きだったから、愛おしい分、気になって、必要以上に怖くなる。
話し合える頃には、2人ともスッキリしていた。
「……ということで、その、明日から夏休み、というわけなんですけども」
「うん、そうだね。1ヶ月も菖のこと見れないの、寂しいなあって思ってた」
緊張が解けた、明らかに安心した表情。
そんな可愛い顔で、可愛いことを言わないでほしい。
「明日、夏休み初日、どっか行く?2人で」
「えっ……」
「これでも、デートのお誘いなんだけど。昔よりも俺たちの移動範囲広がったし、どこでも」
「っ、じゃあ、小学校の頃の通学路コースデート!」
「なんだそのムードの欠片もないやつ」
そんなツッコミに、羽奈が軽やかに笑う。
「ムードしかないじゃん!」
「ある意味な。じゃあそうしよう。よし、そろそろ明日に備えて早く帰って、寝ましょうか、羽奈さん」
そう言ってベンチから立ち上がって隣をみると、彼女が手を伸ばしていた。
「ん」
「フッ」
思い出す。
昔、羽奈がよくしていたこと。
彼女の正面に立ち、その手を掴んで引っ張ると、勢いよく俺の腕の中へとすっぽり入った。
ドキドキとなる胸の音を心地いいとさえ感じて、そのままギュッと抱きしめる。
「菖、大きくなったね」
「ん。力も強くなったから。もう離さないよ」
「それは、羽奈と離さないをかけていますか?ムードの欠片もないね」
「こっちのセリフなんだけど。そんなこといちいち言わなくてよくないですか?」
顔を上げてこちらを見つめる彼女の頬を両手で包み込んで。
鼻先が触れそうなほど近づいて、我慢できずに笑い合う。
「だって……照れるじゃん」
「うん。好きだよ、羽奈」
「なっ……!」
愛おしい幼なじみとの眩しすぎる夏が、はじまる。
【end】