「……や、ごめん、あの、邪魔して」
彼女とばったり遭遇して話すことなんて、今までに何度も妄想してきたことなのに。
いざ、その場面が現実にやってくると、うまく言葉が出てこない。
やっと出てきた言葉も、よく分からないもの。
「いや、何してるの!アイス、溶けるよ!早く食べなきゃ!こっち来て!」
「えっ、あっ……やばっ」
そう言われて目線を手元のアイスに向けると、確かにもう溶けかけていて少し手に垂れていた。
急いで、言われるがまま、彼女の座るベンチに腰を下ろして、アイスを口に突っ込んだ。
棒を持つ手にどんどん滴る溶けたアイスの液。
「うそ、ちょ、溶けるの早すぎない?昔こんな早かったっけ」
アイスの溶けるスピードのあまりの早さにそう声を漏らすと。
「ほら、急いで!落ちる!」
なんて横から急かす声がする。
「いや、急げっつったって、これ……」
「もう全部一口で言ったほうがいいよ!」
「っ、まじかよっ」
もっと、昔を懐かしみながら食べるはずだったのに。
結局、アイスのほとんどを一気に口の中に含んでしまい、悲しみながら咀嚼していると、今度はキーンと頭に痛みが走る。
「んっ、あたっ、やばっ、った!」
声にならない声で、頭を抱えていると。
「フハッ」
と彼女の毛先のように跳ねた、軽快な笑い声がした。
大勢の前でいる時は、割と控えめなのに。
2人きりになると、よく笑ってよくしゃべる。
昔から、自分にだけ特別な羽奈を見せてくれている気がして嬉しかったんだ。
「ちょ、何笑ってんの。羽奈が一気に食えとか言ったせいなんですけど」
頭を抱えながら彼女に視線を向けると、バチっと視線が絡んだ。
『羽奈』
久しぶりにその名を口にして緊張したのは、内緒だ。
それでも、思ったよりも自然に話せているのが嬉しい。
あの頃に、戻ったみたいだ。
「ハハハッ、だって、菖、アイス溶けておっことして泣いたことあったじゃん。だから、泣かれたら困ると思って」
「いつの話だよっ」
「フフッ、ねっ」
すごく楽しそうに、嬉しそうに笑うその姿は、やっぱり眩しくて。
思わず、目を逸らしてしまいそうになる。
でも、変わらないその笑顔を俺に向けてくれたのを見て、もう失いたくないと強く思ったから。
「……びっくりした、まさか、羽奈がいるとか」
「ね。私もめっちゃびっくりした!……でも、」
「……?」