「いいよ。けど、俺のどこを好きになったのかだけ教えて?」
できるだけ優しく、そう思いながらも徐々に威圧的になってしまっているのはわかっている。
でもこれが、本当の俺なんだよ。
今までは割とスマートにかわせていたのに。
やべ、と思いながらも自分の口は動くのをやめない。
「えっ……えっと……」
「俺と話したことあったっけ?絡んだことあった?」
「な、ないけど……でもっ」
「……それとも君も、星谷 宝楽推しとか?」
若干の笑みを含んでそう言えば、彼女の顔がカァっと赤くなった。
図星らしい。
星谷宝楽。今、女子に人気のアイドル。
俺の顔は、その人に似ているらしい。
いくらアイドルに顔が似ていたって、ずっと好きな人を振り向かせられないなら意味がない。
「……はあ。……そろそろ星谷宝楽のこと嫌いになりそう」
「ちょっと、四谷くん、そんな言い方ないんじゃない?」
告白してきた彼女のお友達が強気な声色で言う。後に続いてもう1人も口を開いた。
「そうだよ。ひどすぎ。桃子の気持ち、ちゃんと聞いてやっ───」
「……ひどいのはそっちじゃない?俺のことよく知りもしないのに。しかも、友達からでもいいって……本当に好きなわけ?軽く絡めればいいな、ぐらいに思ってるんでしょ。傷つくんだけど」
きっぱりそういうと、彼女は目に涙を溜めたまま走っていってしまい、彼女の友達も「サイテー!」と残して行ってしまった。
……確かに、俺は最低だ。
『ずっと好きな子がいるから』
はっきりとそう言えば、俺に声をかけてくる人は今よりもうんと減るだろう。
でも、そうしなかったのは……。
少しでも、羽奈の視界に入っていたいから。
俺が女の子に呼び出されようが、羽奈にとってはどうでもいいことで、興味がないかもしれない。
そんなことわかっているつもりでも、1%でも可能性があるならと、抗ってしまう。
気にして欲しい、見て欲しい。
ガキみたい。いやガキだ。俺はずっと。
昔住んでいた団地の隣の公園。
そこで、羽奈と他の子たちと遊んでいたときと何も変わらない。
羽奈に一番見て欲しくて、必死だった。
羽奈を一番、笑わせたかった。
羽奈の手を、ずっと離したくなかった。
その気持ちが、恋だってことに気付くのがほんのわずか、遅かっただけ。
あんな噂が流れる前に、俺の口から、伝えたかった。
あーあ。
永岡と大江が羽奈の良さに気付いていたからって。
永岡のサッカー部の先輩が、羽奈に気があるからって。
イライラしすぎ。ほんと、余裕なさすぎ。
いつもなら、当たり障りなく断るのに。
こんなことになってから焦ったって意味ねぇのに。
「はぁー最悪」
誰もいなくなった踊り場で、髪をわしゃわしゃとかいて、ため息混じりにつぶやいた。